お食事会の星☆:商社マンより商社事情に詳しいマテリアルガールに、翻弄された2人の男
翌日、金曜日の15時、鉄平は大きく伸びをして席を立った。
エレベーターに乗り1階のカフェに行くと、聞きなれた声に呼び止められる。
「おう、鉄平」
振り返ると、立っていたのは瑛士だ。鉄平は笑顔を作ったものの恐らくそれはきっとぎこちなかっただろう。思わず目を逸らしてしまった。
― コーヒーを買ったら、すぐに消えよう。
瑛士の顔を見ると、礼実の顔が浮かんでくる。それがどうにも居心地が悪くて、早くこの場を去ることしか考えられない。
「最近の食事会、どうだった?」
瑛士から突然聞かれて、鉄平は「ああ、みんな綺麗だったよな」と、やり過ごす。礼実の話を出されたら、驚いたふりをしようなどとこざかしいことを考えながら、瑛士の様子を伺う。
「俺さあ、入社してから鉄平に食事会に誘われるのが、実はすげー嬉しかったんだよ。俺、就職するまではかなり地味な生活だったから、西麻布で飲んだこともなければあんな綺麗な女の子と話したこともなくて、商社ってすげー!て感動してたんだよ」
「へえ、そうなんだ」
瑛士が何を言おうとしているのかはわからないが、鉄平はとりあえず早くこの話を終わらせたかった。
「あのさ。そういえば最近、俺も株を始めてみようと思ってるんだよ」
おどけて話す瑛士を見ながら、たまらなくなった鉄平は強引にでも話題を切り替えることにした。
「へえ、そうなんだ。どこの証券会社か決めた?」
「松井証券。瑛士は?」
鉄平が聞くと、瑛士は驚いたような笑顔で「俺もだよ。さすが鉄平、わかってるな」と言い、ポケットからボールペンを取り出して笑った。
「ネット証券って最初は色々不安だったんだよ。でも松井証券は老舗だから安心だし、タダで使えるアプリとか、たくさんあるのが良いよな」
と、まさに鉄平が気に入ったところをピンポイントで瑛士が言った。
「株ってさあ、勉強すればするほど面白くなるし、食事会とかで、女の子が勤めてる会社の新しいサービスのこととか、彼女たちが好きそうな化粧品会社の新商品のこととか知ってると、意外とドカンと盛り上がれたりもするんだぜ」
―せっかく話逸らしたのに、また食事会かよ。
鉄平は思わず舌打ちしそうになる自分を諌めた。瑛士はそんな鉄平に気づく様子もなく、心なしか遠い目をして続ける。
「俺さあ、会社でも食事会でも鉄平は俺たち同期の中心にいたから、密かに憧れてたんだよ。恥ずかしけど、鉄平と一緒にいれば俺もすごいヤツになれた気がしてさ。だから食事会に誘ってたんだよ、実は。もちろん、彼女作りたいってのもあるけどな」
予想もしなかった瑛士の言葉に、鉄平は目が覚めるような気持ちで改めて瑛士を見た。
瑛士がそんなことを考えていたなんて、思いもしなかった。そんな瑛士に嫉妬していた自分がとてつもなく小さい男に思えて、恥ずかしくなる。
―礼実の毒牙にハマっていくのを見過ごすわけにはいかない。
鉄平は、急に湧き出てきた正義感に突き動かされるように、気づけば口が動いていた。
「瑛士、お前さ。礼実ちゃんと付き合ってるって、本当?」
この質問に、瑛士が一瞬見せた動揺。鉄平はそれを見逃さなかった。