渋谷で69年続く焼鳥店に、今でも毎日行列ができるってスゴくないですか

渋谷マークシティの腹部で、ぽっかりと口を開く、京王井の頭線・西口。改札を出てすぐ、左手正面の角に、まるで漁り火のようにぼんやり灯る赤提灯がある。

変わりゆく渋谷にあって、69年もの間、光を放ち続ける『焼鳥 森本』。17時の開店と同時に、魅力を知る老若男女が、どんどんと吸い込まれていく。縄のれんの向こうへ。


歴史が育み、継承された別格の美味と、最高の接客

選んで正解。レバ刺しを食べると、いつもそう思う。ねっとりとした舌触りに、強い旨み、後味はスッキリ。

酢橘や山葵、青ねぎの威力も絶大だ。そして、東京軍鶏を筆頭に、種々の部位が揃う焼鳥もまた然り。

多くの焼鳥屋が軒を連ね、芳しい煙の香りに打ちのめされる界隈にあって、別格と断言できる完成度を堅持している。ありがとう。

変わらないことの素晴らしさに思わず感謝したくなる、渋谷では希有な存在だ。

とり刺し¥772、レバ刺し¥905。刺身も売り切れになることが多い人気商品。レバに青ねぎ、鳥にミョウガと、それぞれに応じて替えられる薬味にも配慮が感じられる


「始めは道玄坂でドジョウや鰻を捌いて売る露店だったみたい」 営業中、ずっと炭火の前に立ち、四角い渋団扇を煽ぎ続ける渡部邦義さんは言う。

初代が露店を開いたのは昭和23年。だから、今年で69年。創業からほどなく、駅前にある三菱東京UFJ銀行付近で葦簾(よしず)の屋台に。焼鳥を食べさせるようになったという。

今も元祖を謳い、来たら必ず食べるべき、つくねは初代の考案。戦後間もなくで、肉質の固い鳥も出回っていた当時、「どうやって美味しく食べさせるか」と、苦心の末に誕生した一串だ。

粉や卵などのつなぎは一切使わず、鳥以外はジューシーさを醸すための玉ねぎと清涼感を生む柚子のみ。凝縮された旨みが脳裏に甦る。

上の皿・右から相鴨、笹身、うずら玉子、椎茸。下の皿・つくね、砂きも、ひな皮、血きも、うなぎ太巻。すべてこの9本にお新香が付くBコー¥3,189より。焼鳥の単品は1本¥216~。11月中旬から3月までは真鴨や小鴨の野鳥も


「店になったのは今から60年ぐらい前。あっち側にレンガビルってあるでしょ? あの場所に移ったときで、その頃の屋号は『弁天亭』。前を行く道が弁天通りになるぐらい名物店だったそうだよ」

渡部さんは3代目。昭和47年に『弁天亭』は今の角地に移り、『森本』を名乗るようになったが、それから6年経った昭和53年に従業員として勤め始めた。

移転を決行し、自身の名を店に冠した2代目から「店を継いで欲しい」と頼まれたのは今から12年ほど前。

「引退した先代? お元気だよ。女将は、今も店にいらっしゃる」

いつもの光景を思い出し、それで合点が行った。訪れるといつも優しい笑顔で「いらっしゃいませ」、帰る客ひとりひとりに「また来て下さい。

ありがとうございました」と丁寧に頭を下げる、あの女性が先代の女将だったのだ。

いまも現役で店に立ち続ける女将。開店から21時頃まで、店に立つ。その笑顔のファンも多い

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