忘れられない男 Vol.1

忘れられない男:リングを外した、右手の薬指。27歳女の元彼との「サヨナラ」の儀式

27歳、新たな出会いを求める春香


祐也が姿を消して3年。まもなく27歳になる。

彼を失った悲しみも徐々に癒え、春香は新しい出会いを求めていた。

—今夜こそ、いい人に出逢えるかもしれない。

春香は相当な気合いを入れ、西麻布『ダルマット』での食事会に臨んでいた。

「春香ちゃんって可愛いのにほんとに彼氏いないの?どれくらいいないの?」

ノリのいい男に尋ねられ、春香は笑顔で答える。

「うーん、3年くらいかな」

するとその場の空気が静かに凍りついてしまった。

—あれっ、みんな引いてる…?

春香はしまったと思ったが、もう手遅れだった。



食事会からの帰り道、親友の恵子が春香をたしなめる。

「春香ったら…。3年も彼氏がいないだなんて、何も正直にバラさなくても…」

だって本当のことだもの、と春香が口を尖らせると、恵子は肩をすくめた。

「あのね。この歳でそんなに長いこと彼氏がいないなんて、何か問題があるか、よっぽどモテない子だと思われるわよ。1年くらいって言っとけばいいのに、本当に馬鹿正直なんだから」

ぶつくさ言っている恵子を横目に、春香は祐也からよく言われた言葉をそっと思い出して、胸がちくりと痛んだ。

—春香は、嘘がつけないところが可愛いんだ。


『ダルマット』での食事会から数日後、春香は男性陣のひとりから誘いを受けた。

恵子にあれほど駄目出しをされた割には、どうやら食事会は失敗というわけでもなかったようだ。

優しくていい人そうだったその男性は、国内最大手の通信会社に勤めていると話していた。途端に「結婚向き」という単語が春香の頭の中をちらつく。

—彼氏なしの3年に、いよいよ終止符を打つ時がやってきたかもしれない!

春香は意気込んで、指定された店・恵比寿の『アポンテ』に向かった。

実は、彼から店の名前がLINEで送られてきたとき、春香は動揺した。ここは、祐也と何度も足を運んだ店なのだ。

カウンター席に腰掛けて、男性は店内をきょろきょろ見回しながら嬉しそうに話す。

「ここ、同僚から美味しいって聞いて、一度来てみたかったんだ」

思わず春香は大きく頷いた。

「うん、ここのお店、私も大好き!レモンクリームのパスタがすっごく美味しいんだよ」

勢い余ってそこまで言いかけて、すぐに気がついた。

—あっ…またやってしまった。

あれほどいつも恵子から、デートではとりあえず「こんなの初めて」を連発しておけと口を酸っぱくして言われているのに…。

すぐに彼の表情が曇る。

「あ、春香ちゃん、来たことあったんだ…。もしかしてデートだった?前に話してた、3年前の彼氏?」

春香は慌ててすぐに話題を変えたが、後の祭り。彼の表情は晴れないままだった。

そのあと、2度目のデートに誘われることはなかった。



恵子にデートの失敗談を報告すると、予想どおり説教をされてしまった。

「よりにもよって、祐也くんの話をデート相手にするなんて…。呆れた」

恵子は大きくため息をつく。

「春香は恋愛経験が乏しすぎるのよ。世の中にはたくさんの男がいるってことを知った方がいいわ」

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
そろより、急にいなくなった祐也の行方が
気になって仕方ない 笑
2017/10/04 07:4361返信1件
No Name
2年付き合って音信不通は悲しすぎるけど、3年間言いあぐねてたであろう、右手薬指のリングについて、言うべき時にはっきり指摘してくれる友達がいて、ひとまずよかった
2017/10/04 08:1240
No Name
みえる!見えるぞ!拓也が突然現れて、復縁を迫る未来が
2017/10/04 07:4638返信1件
もっと見る ( 17 件 )

【忘れられない男】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo