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「え・・・?私が、広報ですか?」
エリカがそう言うと、西島は大きく頷いた。社長の西島は、現在35歳の独身。年々渋みを増している塩顔のイケメンは、エリカのど真ん中タイプだ。しかし会社では、もちろんその気持ちを封印している。
西島は今、新しい事業を構想中だった。若い女性向けに有機野菜のサラダをデリバリーするというものだ。
この新事業への、西島の意気込みは凄まじかった。会社がさらに成長を遂げるか否かは、この事業に懸っているのだ。
その気迫に蹴落とされるかたちで「分かりました」と言ったはものの、エリカは広報という仕事について何の知識もなかった。
―何をすればいいんだろう?
自分のデスクに戻ると、エリカはひとまず「広報 やり方」と検索した。そのくらい、何の手がかりもなかったのである。
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―メッセージを送信しました。
広報という新たな業務を与えられてから1週間後、エリカはプレスリリースを何社かに送っていた。
途方に暮れていたエリカだったが、調べていくうちにまずプレスリリースを作り、メディアに取り上げられることが先決だと気づいたからだ。
リリース作成にあたっては、改めて西島に話を聞き、またシステム周りについてはSEにもしつこく確認を取った。いざそのサービスを見知らぬ人に伝えようと思うと、かなりの労力が要ることが分かった。
しかし何社かにそれを送ったあと、3日経っても1週間経っても、これといったリアクションがなかった。
ー苦労してリリース書いたのに・・・。何でだろう?
深夜、オフィスで一人逡巡していると、スマートフォンが鳴った。
「もしもし?エリカちゃん?」
声の主は、剛だった。剛は、OL時代に知り合った男の一人で、こうして時々連絡を寄越す。
「何ですか、もう。相変わらず遅いですね」
時計の針は、23時を過ぎている。
「ふふ。エリカ嬢は、相変わらず強気だなぁ」
剛はテレビ局勤務で、電話が来るのはいつも深夜だ。エリカの生意気な性格を知っているので、「エリカ嬢」とからかってくるのだ。
「エリカ嬢、ちょっとお疲れ気味だね。どうしたの?」
剛はお調子者だが、根は優しい。エリカは、少し弱音を吐きたくなった。テレビ局で働いているなら、広報の仕事にも理解があるかもしれない。
そう思ったエリカは、ここ一週間の出来事を一気に話した。いきなり広報になったこと、プレスリリースを作ったが、何も反応がなく困っていること。
すると剛は、珍しく真面目な口調でこう指摘した。
「それって、エリカ嬢が直接送ってるの?プレスリリースの配信サービスとか、使ってないの?」
使ってない、と答えると剛はこう言った。
「ウチの会社だと、配信サービス会社が送って来たプレスリリースから情報拾っていたよ。『PR TIMES』 とか、知ってる?」
名前だけは、知っていた。ベンチャーの知り合いがFacebookでシェアする投稿の中で、『PR TIMES』 の記事を読んだ記憶があったからだ。
「俺の知り合いで、広報の有名な人がいるよ。話聞いてみるといいんじゃない?紹介しようか」
剛からは散々デートに誘われているが、いつも断っている。こういうときだけ利用するのもいかがなものかと思ったが、背に腹はかえられない。
「わぁ、嬉しい」と大袈裟なくらい喜びながら、剛に質問した。
「・・・ちなみに、どんな人ですか?」
「飲食店の広報。面白い仕掛けを次々に考えつく人なんだよ」
「ふぅん。有名な人ですか?」
「倉本早紀さんって言うんだけど、知ってる?エリカ嬢ほどの美貌じゃないけど、有名なPRパーソンなんだよ」
―倉本早紀。
その名前を聞き、エリカは固まった。
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早紀との思いがけぬ再会。忘れかけていた嫉妬心を思い出す!?
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