細長く白い手足が、白いワンピースからすらりと覗く、白のマノロブラニクをはいた可憐な美女だ。
ここにいる女性たちとは一線を画す上品さがある。小さな顔に大きな目、人形のようなスタイルと可愛らしい顔立ちに博人は一瞬にして心を奪われた。
モデルなのだろうか、でも芸能関係の匂いを一切感じさせない清楚さを醸し出している。
すると、博人が話しかけるよりも先に主役が謎の美女を手招きした。主役は悪びれる素振りもなくそそくさとリカをどかし、その美女を隣に置いた。
飲み会中に主役は美女を離すことなく、博人はとうとう一度も話しかけることができなかった。
1時間ほどして美女は席を立ち上がった。どうやら帰ってしまうらしい。
「俺、送ってきます」
チャンスだと言わんばかりに博人は美女のお送りに名乗りを上げた。
「今日はありがとう、あの人大変だったでしょ」
自分の財布からタクシー代として2万円を手渡した。これで格好が付くなら、今はこの美女にいい顔をしたい。
「よかったら、LINE教えてよ」
外資系証券会社勤務で高身長。イケメンと言われるのが当たり前な博人にとって、連絡先取得なんぞ百発百中のはずだった。
「ごめんなさい、充電切れちゃって。ありがとうございました」
美女は2万円をしっかりと受け取ると、そそくさとタクシーに乗り込んでいなくなってしまった。
時間は、ぴったり0時。
「マロノブラニクを履いたシンデレラ...」
0時にお城に帰った、正真正銘のシンデレラなのだろうか…。そんな淡い夢を抱いたものの、どうせ彼女もタクシー代目当てで来た港区女子なのだと思う方が、気が楽だった。
港区で飲んでいる女なんて信用できない。これまで何度落胆したことがあっただろう。期待しない方がいい。夢なんて見ないほうがいいんだ。
美女の残り香と夜風に当たりながら一人立ち尽くしていたのもつかの間、博人は見知らぬ女子大生達に腕を引かれた。
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