「私だけの特別扱い、喜んでいいの?」素直になれぬバリキャリ代理店女子が抱く、ある疑問
世の中には、必ず下の名前で呼ばれる女子がいる。
そして反対に、苗字でしか呼ばれない女も。
代理店女子、松下美貴(29)は、圧倒的に後者だった。
美貴は、細部にまでこだわる徹底した仕事ぶりで、いつも周囲から頼りにされている。しかしそんな彼女には、ある疑問があった。
「松下さん!ちょっとこの資料、確認してもらっていいですか?」
新入社員の女の子が、泣きそうな顔で駆け込んできた。明日のプレゼン資料を上司から駄目出しされ、イチから作りなおしているのだ。
私の名前は、松下美貴。
3人兄妹の長女で、しっかり者の「姉御肌」と言われることが多い。昔から、「美貴」と呼ばれることはなく、「まっちゃん」「まっつん」と呼ばれることがほとんどだ。
今年の春に配属された、新入社員の子の名前も“美希”だ。私と違い可愛らしいタイプの彼女は、“ミキティ”と、しっかり下の名前で呼ばれている。
「分かった。今すぐ確認して口頭で言うわ。少し待ってて」
「ありがとうございます!」
“ミキティ”は安心したようで、ぱっと笑顔を取り戻した。
私は最後まで結果にこだわるから、少し恐れられながらも、こうやって周囲に頼られることが多い。
チーム一丸となって取り組む連帯感と、最後までやり抜く達成感を与えてくれる仕事が、私は大好きだ。こんな性格だからこそ、この厳しい広告業界で、何とか生き抜いていけているのだ。
それでも時々、こんなことを考えたりもする。
“ミキティ”と呼ばれる人生ってどんな感じなんだろう?って。