もう昔のようには、笑えない
ー2週間後ー
「あゆみ、お誕生日おめでとう!」
週末のランチタイム、六本木ヒルズの『イルブリオ』。
理香のかけ声に合わせて、そっとシャンパングラスを合わせた。子どもを産んでから飲まなくなった理香だけは、ジンジャエールだけれど。
19歳の時に日吉キャンパスで出会った沙耶たちは、もう10年以上こうしてお互いのお誕生日をお祝いしている。
変わらないのは、本人が主役の時以外はいつも理香がお店を予約し、花束を準備してくれること。
変わったのは、集う場所が渋谷や恵比寿から六本木に移り、自然と高級イタリアンやフレンチレストランに足を運ぶようになったことと、週末のランチタイムに集まるようになったことだ。
今日のお店も、理香が予約をしてくれた。
投資ファンドを経営する10歳年上のご主人とよくディナーで利用しているらしく、スタッフとも顔見知りのようである。
「3人で集まるのなんて、いつぶりかしら」
理香の言葉に、沙耶とあゆみは曖昧に笑う。
「最近、とにかく仕事が忙しくて。担当しているプロモーションがもうすぐひと段落するから、そしたら遅い夏休みをとってハワイで羽をのばしたい」
言い訳をするように早口で近況報告をしたら、隣であゆみが「お疲れ様」と慰めてくれた。
しかし言ってしまってから、この手の話題を理香にしても、もはや共感されないことを思い出す。
独身女にとってはアピールでもなんでもない、ただの近況報告でも、仕事を捨てて母業に徹している理香は違う受け取り方をしかねない。
「...相変わらず大変そうね。毎日、息子とアメリカンクラブのプールで遊んでいる私とは大違いだわ」
ふふ、と理香は上品に笑ったが、沙耶はそこにある棘を見逃せなかった。
いや、もしかしたらこれも理香にとってはただの近況報告なのかもしれない。
しかし、毎日身を粉にして働き、休みがないと嘆いている独身女に対し、自分は平日の真っ昼間に、子連れでアメリカンクラブのプールで遊んでいるなどと言う必要があっただろうか?
...最近は、集まるといつもこうだ。
別カテゴリーとなってしまった女たちは、もう『ローダーデール』の彼女たちのようには無邪気に笑えない。
「ね、私から報告があるのよ」
沈黙を破るようにして、ふいにあゆみが弾む声を出した。
「なぁに?もしかして、おめでたい話?」
身を乗り出すようにして食いつく理香。
一方で沙耶は、えも言われぬ予感に動悸がして、言葉を発することができなかった。
▶NEXT :8月23日 水曜更新予定
あゆみの「報告」とは?さらに複雑化する、女の友情...
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