港区内格差 Vol.17

今日、港区から去る者がいる。元港区民が哀れまれずに済む引っ越し先とは?

港区であれば東京の頂点であるという発想は、正しいようで正しくはない。

人口約25万人が生息するこの狭い街の中にも、愕然たる格差が存在する。

港区外の東京都民から見ると一見理解できない世界が、そこでは繰り広げられる。

これはそんな“港区内格差”を、凛子という32歳・港区歴10年の女性の視点から光を当て、その暗部をも浮き立たせる物語である。

港区タワマン・オワコン説に異論を唱え、三田在住なのに麻布十番と言うCAや、いつまでも宴の終わらぬ港区を考えた。


いざ、港区卒業の時。


ミンミンゼミがけたたましく鳴いている。

昔に比べてセミの数は減っていると言うが、毎年セミの鳴き声を聞くたびに夏本番が来たと実感する。

今年は、いつもより早い夏の到来だったように思う。だから既に夏は満喫したと勝手に思っていたが、夏本番はこれからのようだ。

今日凛子は、雅紀と一緒に引っ越し先の物件を見に、品川に来ている。もちろん、足取りは重い(とはいえタクシーなので実際に歩くわけではないが)。

雅紀が探してきた物件は、品川プリンスホテルからほど近い、閑静な住宅街にあるヴィンテージマンションだった。

緑が多く、素敵な場所だ。駅で言うと高輪台、もしくは品川になるようだ。新幹線にもすぐに乗れるし、便利である。

だが、気乗りしないのは何故なのだろうか。

—ただの住所。

そう言われれば、それで全て解決するのは分かっている。それでも、何故だろう。港区には、そんなちっぽけな一言では言い表せないような、不思議な魔力がある。

「ここは数年間だけで、子どもができたらまた引っ越しを考えてもいいかなと思ってるんだ。」

嬉しそうに話す雅紀を、どこか他人のように見つめながら、凛子はこれまでの港区人生を思い出していた。

—港区で、私は何を見失い、何を得たのだろうか...

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