出世したい―。
サラリーマンである以上、組織の上層部を狙うのは当然のこと。
だが、仕事で結果をだすことと、出世することは、イコールではない。
そんな理不尽がまかり通るのが、この世の中だ。
出世競争に翻弄される、大手出版社同期の2人。
果たして、サラリーマンとして恵まれているのは、どちらだろうか。
秋吉直樹は、デスクにかかってきた内線電話の表示を見てため息をついた。
6月第2週の今日は、人事異動が内示される日。
この日は皆、内線電話が鳴る度にびくりと肩を動かす。
普段は淡々と仕事をこなす直樹も、今日に限ってはやはり落ち着かない。
だが、自分に限って異動はない。そう思いこんでいた。だから余計に、内線電話を受けて落胆した。
「はい、秋吉です」
いつも通り電話を受けると、相手は部長だった。
これでもう、確定だ。
「おー、秋吉だったか」
受話器を置くと、3つ上の先輩がニヤケ顔で言ってきた。
正式な辞令が出されるのはまだ数日先だが、内示の日に内線電話を受けていそいそと席を立てば、「それ」がきたのだということは一目瞭然だ。
内示が出たことも本来であれば口外してはならない決まりだが、それを堅く守っている者などいない。よく言えばオープンな社風なのだ。
こうして7月から直樹は、希望していなかった部署での新生活が始まるのだった。
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