港区おじさんコレクション Vol.7

どん底の港区女子に最も沁みたのは、港区お爺さんのお言葉

外資系投資銀行でバックオフィスを担う、有希、30歳。

港区の酸いも甘いも知り尽くした彼女に与えられた呼び名は、“港区おじさんコレクター”。

数々の港区おじさんをコレクションしていた有希のポートフォリオに突如として入り込んできた浩介。彼との甘い時間を楽しんでいた有希だったが、突然のプロポーズに動揺することになる。

プレゼントを受け取らない、同年代の港区おじさんとは付き合わない。そんなタブーを犯した有希が助けを求めた相手とは。

苦しみと悲しみ。思い出したくない記憶。


18:00

今日中に仕上げなければいけないはずの書類が、デスクに山積みになっているのを眺めながら、有希はキーボードに立てかけた1枚のトランプのカードに目線を移した。

浩介からのプロポーズとともに受け取ったカードだったが、有希はあれから1ヶ月近く浩介と連絡を取っていなかった。

長らく頭の中から抜け落ちていた「結婚」という二文字を突きつけられ、正直戸惑っていた。そんなとき、有希はある別の男のことを思い出していた。啓一という男だった。

―啓一、会いたい。

立ちくらみのようなめまいに襲われ、トイレに移動すると有希はひどく青ざめていた。



有希には学生時代ずっと付き合っていた恋人・啓一がいた。

将来を約束し、一緒に就職活動を乗り越えようと頑張ってきた2人を引き裂いたのが、リーマン・ショックだった。

有希はなんとか内定にこぎつけたものの、啓一は内定取り消しを受け、実家の家業を継ぐこととなった。

もともと関西では誰もが聞いたことのある大企業の跡取り息子だった啓一だが、有希との将来を考え、親の反対を押し切り、東京での就職を希望していた。啓一の親からすれば2人を引き離す絶好のチャンスが訪れることとなったのだ。

結局「コネ入社」と言われ、社員から冷たい目線で見られた啓一と、大型案件を成功させ活躍を遂げる有希との間には、大きな溝ができ、いつしか物理的だけでなく心理的な距離が生まれていた。

あれは、啓一の25歳の誕生日。

有希は仕事が終わると最終の新幹線に乗り込み、新大阪駅を目指した。こっそりサプライズをしようと合鍵でマンションの部屋を開くと、玄関には見知らぬサンダルが置かれていた。

「ハッピーバースデー啓一!おめでとう~!」

奥の部屋には、いつも有希が座っているはずのソファに知らない女性が座り、啓一と誕生日ケーキを囲んでいた。その光景を見た後、有希はどうやって自分の家にたどり着いたのか覚えていない。焦った啓一の声が自分を追いかけてきたのだけを覚えている。

有希は、次の日も変わらず出社し、3度の食事をし、睡眠を取った。

何も変わらない1日だったが、あの日を境に有希の中からは、一切の感情が消えてしまった。

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