エーデルワイフ Vol.3

エーデルワイフ:一筋縄ではいかなかった30年間。強くなってしまった女が抱える葛藤

幸せなはずの新妻の、涙


2時間無心で作業をしても、千晶のナンタケットバスケットは3cmほどしか編み上がらなかった。まだまだ、先は長い。

ナンタケットバスケットは、籠のエルメスという異名を持つ高級品だ。

雪乃と出会った日、興味を持った千晶はナンタケットバスケットについて調べてみたのだが、市場価格が数十万と知った時は我が目を疑った。

著名な作家ものになると100万円を超えるものもある。

ただの籠バッグに?!最初はそう思ったが、いざ自分で作ってみるとその価格設定にも納得せざるを得なかった。

とにかくすべて地道な手作業で作り上げるので、完成までに相当な時間と労力がかかるのだ。

「エーデルワイス」を出た後プラチナ通りを駅に向かって歩きながら、千晶は雪乃に言われた言葉を思い出していた。

−人生は“長い目で見れば”平等なのよ。

彼女の言葉はいつもすっと心に染み入るのだが、今回に限ってはすんなりと承諾できないところがあった。

私情を抜きにしたって、やはり自分と結衣の人生が平等とは思えない。

千晶の実家は埼玉で、県立高校から一浪ののちに慶應義塾大学に入学した。卒業後は広告代理店を志望したがあえなく惨敗。

就職活動中に出会った縁で代理店OBの男性が起業したイベントプロデュース会社を紹介され、そこに就職を決めた経緯がある。

とにかくこの30年、一筋縄ではいかない人生だった。おかげで不屈の精神が鍛えられたが、正直、弱い女のままでいられるならそれで良かった。

女が強くなって、良いことの方が少ない気がする。

一方の結衣はというと、まさに白金台に実家があり、お嬢様学校として名高いエスカレーター式女子校の出身だと聞いた。

一度も働いたことがないと言っていたから、いわゆる「家事手伝い」ののちに結婚したのだろう。

この差のどこが、平等だと言えようか。


プラチナ通りは、いつも上品にさざめいている。

立ち並ぶブティックやレストランに臆することなく入れるようになったのだって、千晶にとってはつい最近のこと。

しかしおそらく結衣は、幼い頃から母親に連れられ出入りしていただろう。

そんなことを考えながら、白金台の交差点に差し......


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