東京マザー Vol.6

東京マザー:未婚女が既婚者の愚痴を言うと「ただの嫉妬」と片づけられる、不条理な現実

37歳で結婚していない女への、無言の圧力


当時のゆり子は、29歳という年齢がさほど気にならないくらいにモテていた。

「今この人で妥協しなくても」

そんな余裕があった。そして結局37歳になった今も、ずるずると一人の暮らしを続けている。

だが、若い頃から特別結婚願望が強いわけではない。それなのに、この年齢で結婚していないと、自分がよくてもまわりが許してくれないのだ。

人として何か欠陥がある、性格に問題がある、などとまわりは想像を膨らませて、“結婚できない哀れな人”と勝手に決め付ける。決して、“結婚しない人”とは見てくれないのだ。

これまでの恋愛だって、後悔はない。

付き合ってきた男性は大勢いるし、素敵な思い出もたくさんある。中には結婚を考えてくれた男性だってもちろんいる。

そんな彼らとの“タラレバ”は特にないのだが、紀之に関してはそうではない。

唯一、喉に刺さった魚の骨のように、紀之のことだけは心の奥深いところに嫌な感覚をずっと残している。

それは、付き合わなかったからだろうか。自分のような女には、紀之のような男性こそ適しているのだとわかってしまったからだろうか。あるいは、佳乃の夫だからだろうか。



「希ちゃん、ランチ行かない?」

毎週木曜日の午前中に開かれる、チームの定例ミーティングを終えて、ゆり子はをランチに誘った。

トルコ料理が食べられる『ボスボラス・ハサン』で日替わりランチを注文するなり、ゆり子はさっそく早口に喋り始める。


「ねえ希ちゃん、佳乃さんってプライベートのこと話し過ぎじゃない?」

沸点を超えたイライラを、一刻も早く吐き出さねば、腹の虫がおさまらないのだ。

「さっきのミーティングのことですよね?」

「そうよ。今日に限ったわけでもなく前から思ってたんだけど、佳乃さんって何を話してても結局自分の子どものかわいいアピールと、自分がいかに大変かしか言わないでしょう?」

ゆり子が早口で言うと、希は同意するでもなく否定するでもなく苦笑いを返してきた。それでもゆり子はさらに続けた。

「みんなもみんなよ。佳乃さんの話にいちいち“かわいいですね~”とか“佳乃さんって本当に大変ですよね”なんて持ちあげるようなことを言うから、本人もその気になっちゃうのよ」

ゆり子は常々不満に思っていた。なぜ、相手が子どもであれば許されるのかと。

【東京マザー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo