港区おじさんコレクション Vol.1

港区おじさんを「コレクション」しポートフォリオを組む女、現る

六本木にあるオフィスを目指しながら、有希は今日会う予定の男性の顔を思い浮かべる。

開成高校を卒業後、東京大学に進学し、そのまま外資系証券会社の昇格の階段を最速で駆け上った、勇人。

勇人とは、麻布十番のタワーマンションに住む職場の2個上の先輩、聡のホーム・パーティーで出会った。海外研修時代に仕込まれたのか、外国人のような笑顔を振りまいていたのが印象的だった。

学生時代に勉強ばかりしてきた男性が多い外資系証券会社では、私服姿を見るとがっかりする「スーツ詐欺」の比率が高い。180センチと身長が高いだけでも評価が高いのに、勇人の私服のセンスの良さに、有希は思わず心の中で二重丸を描いた。

高学歴で、プライドが高く、何でも1番でなければ気が済まない、「絵に描いたようなエリート」は、株で言うなら「グロース銘柄」。放っておいても成長率が高く、業界で名を成すのは間違いない。

有希のポートフォリオにも何人か「グロース銘柄」男性が組み込まれている。

【港区おじさんコレクション①】
名前:服部勇人
年齢:38歳
職業:外資系証券会社


彼と月1度会うには、「お気に入り12位」までにランクインする必要がある


勇人のようなディレクター・クラスは、時間に自由が効くとはいえ、平日5日間出歩くのは、忘年会シーズンでも難しい。彼が自由に出歩けるのは、会食や上司との会合を含めて週3回が限度だろう。

―3回×4週=12 日

勇人に月に1度会うには、彼の1/12のお気に入りにランクインする必要がある。「グロース銘柄」男性は、職を失ったり、遊ぶお金がなくなったりするリスクは少ないものの、競争率が高いのが難点だ。



ホーム・パーティーも中盤になった頃、聡がこんもりと盛った大皿と共に現れた。

「じゃじゃじゃん!特製!手作り天ぷら~」

リビングに一気に注目が集まる。

「ゼンマイの天ぷらだ!」

既にほろ酔いの麻衣が駆け寄り、大声をあげる。会社の同期であり、同じバックオフィスに勤める麻衣のように、自分とコントラストを出してくれる女友達は重宝したい。麻衣が賑やかならば、有希は穏やかさを売りにする事で差別化を図れるからだ。

「麻衣、これはゼンマイに似てるけどコゴミよ。初夏の山菜。春なのにもう店頭に並んでるのね。」

有希がそっと麻衣に近づく。グルグル渦を巻いてる点では似ているものの、ゼンマイとコゴミは異なる山菜だ。

仕事の知識に強い男性も、季節の野菜の知識にはめっぽう弱い。和食であれば、フキノトウ、うど、くわい。フレンチであれば、白アスパラガス、アーティチョーク、エシャロット。春から初夏にかけての食材として頭に入れておくと便利だ。

自然に自分に注目が集まる状況を作った有希は、その後勇人と会話を交わし、他の人より一足先に帰宅した。

もちろん帰宅途中に勇人からFacebookの申請と「初夏の山菜を食べに行きませんか」とメッセージが来たが、仮に連絡が来なくても、「先に帰ってしまったので」と連絡が出来るように保険をかけておいたのだ。

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