憧れの男性から連れられたい!あの名店の「トマトすき焼き」で恋に落ちる!

腕にまかれたカルティエを見遣ると、もう21時を回っていた。オフィスを出た裕美は、赤羽橋交差点から東京タワーに背を向け大通りを歩く。肩を並べて歩くのは、入社以来憧れている上司、藤田である。

今日は仕事上の自分の担当に大きなミスがあり、謝罪の電話や報告書の作成がひと段落し、ぐったりとPCの画面を睨んでいると、「何かうまいものでも食いに行くか?」と藤田から食事に誘われたのだ。驚きで息が詰まるほど嬉しい反面、なにもこんな日に…と複雑な思いだった。

階下に下ると、入り口では漆黒のスーツ姿の店員が恭しく出迎えてくれる

すらりとした長身にトレンチコートを纏った藤田が立ち止まった足下に、店の名が書かれた行灯が控えめに灯っている。彼に続いて階段を下ると、上品な割烹を思わせる、生成りの暖簾のかかる入り口が見えた。

店の名は『三田ばさら』。これまでのすき焼きの常識を覆す「トマトすき焼き」を打ち出し、3年連続で星を獲得した名店である。

「今日は疲れただろ。ゆったり寛げる店がいいと思って。」藤田の優しさが心に染みる。

一歩店に入れば、牛肉を甘い出汁の香りが鼻をくすぐり、気分が上がってくる。開放感のある店内はシックな内装で統一されており、見回すと、仕事帰りの客に混じって、落ち着いた大人のカップルも目立つ。

しっとりと恋人同士で語らうにふさわしい雰囲気の店を選んでくれたことがやけに嬉しくなった。

程よい距離が保たれたテーブル席のほかに、仕切りで隔てられた個室も。

「酒、いけるよね?」との問いかけに顔を戻すと、こちらをじっと見つめていた。目が合った瞬間、ふわっとほどけたように彼の目尻が下がる。職場では見せない藤田のプライベートな笑顔に隙をつかれ、裕美はその甘い魅力にくらっとした。

『三田ばさら』にはいくつかのコースメニューがあるが、注文すべきはやはり「トマトすき焼き懐石」だろう。まず最初に、手の込んだ八寸が楽しませてくれる。季節ごとに旬の食材がふんだんに使われており、お酒の好きな大人たちを何とも贅沢な気持ちにさせるのだ。

春を感じる八寸を味わいながらビールを注ぎ合えば、みるみる気持ちがほぐれ、二人の間が和んでくる。

前菜を楽しんだ後は、いよいよ「トマトすき焼き」の登場である。貫禄のある鉄鍋に、きめの細かいサシが美しい牛肉と、赤色が眩しいトマトが並ぶ。

スーツ姿の店員が、オリーブオイルでタマネギとニンニクを手際よく炒めていけば、すき焼きへの期待がますます高まっていくのだった。

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