「前回は言わなかったけどちえみちゃんさあ、食事会の最後で、みんながぞろぞろ帰ってる時も、忘れ物がないかとか、チェックしてたでしょ?それが、なんか良いなぁと思ったんだよ」
会って早々、そんなことを言われた。
「そんなの、職業病だよ」と謙遜したが、そんなところを見てくれていたことが嬉しかった。
ちえみはファッションにも、普段から細かい所まで気を配っている。
持ち物はそれなりのブランドで固め、ヒールは絶対7cm以上、洋服も髪も鏡で入念にチェックする。
実はこれは、どちらかというと女性の目を気にしてのことだ。ファッションのことは、男性から褒められるより女性から褒められ、羨ましがられる方が断然嬉しい。それを知らずに、ファッションばかりを褒めてくる男性は、意外と多い。
だから征二が、ちょっとした気遣いを褒めてくれたことが嬉しかった。そこから、思っていた以上に話は盛り上がり、渋谷から高速に乗ってしばらく走ったところで、ふと聞いてみた。
「これって征二くんの車?」
「うん、そうだよ。俺、ドライブが好きだし、夏はキャンプ、冬はスノボに行くのが趣味だからこういうSUVを持ってると便利なんだよ」
「そんなにアウトドア派だったなんて、意外。この車に乗って長いの?」
「もうすぐで半年ぐらいかな。この車がずっと欲しくて、『カーセンサー』でたまたま見つけたんだ」
「『カーセンサー』って、中古車の?」
「そうだよ」と明るく言う征二の横顔を見て、ちえみは違和感を覚えた。
―普通、中古車ってあんまり言わないよね……。
東京では、皆が虚勢を張って生きているのだと思っていた。そうしないと、馬鹿にされたり、舐められたりする。
だから、持ち物や、住む場所や、付き合う友達や恋人で、自分がいかにも価値のある人間であるように見せる。
決して悪いことではなく、それが当たり前だと思っていた。だが、征二の屈託のない笑顔を見て、ちなみが今まで信じていた価値観が急に揺らいだ。
「中古車って、嫌がる人もいるけど、征二くんは気にしないの?」
思い切って聞いてみた。
「あー、いるみたいだね。俺はぜんぜん。そんなことに拘ってる人って、人生ちゃんと楽しんでないんじゃない?本質はそこじゃないよね。それに、中古でも整備は行き届いて綺麗だし、ちょうどいいタイミングで見つけたのが、たまたま中古車だったっていうだけだし」
征二の仕事柄、新車を買えるくらいの経済力はあるはずだ。だから強がりなんかじゃないことはわかる。
あえて中古車を選んでいるのは、この車への愛情とこだわりなのだろう。そのまっすぐな瞳がたまらなく眩しい。
征二は、今までちえみのまわりにはいなかったタイプだ。
不思議なことに彼と話していると、無理に自分を飾り立てなくてもいいような心地良さがあった。
東京にいると、いろんな人がいて自分の大切なものが揺らぐことがある。ともすれば、人からの評価を基準に、良し悪しを判断していることさえある。なによりちえみがそうなのだ。
だが、征二のように自分の価値観に正直でいられる男性の方が強くて、信頼できるように思えた。さらにそんな征二なら、自分のことを大切にしてくれるようにも感じられた。
「ねえ、実は私、スノボ得意なんだ」
スノボの腕は、地元の新潟で散々鍛えた。そこらの男の子に負ける気はしない。
「そうなんだ、意外だね。ちえみちゃんと一緒に行けたら、楽しいだろうな」
「うん、楽しそうだね!」
ちえみは征二の横顔に向かって、満面の笑みでそう答えた。
(Fin.)
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■衣装協力:男性/カーキフィールドジャケット¥84,000(タトラス/ビームスF 新宿03-5368-7305)白Tシャツ¥12,000(タヴァニティ ソー ジーンズ/カイタックインターナショナル03-5722-3684)ジーンズ¥49,000(カレント エリオット/サザビーリーグ03-5412-1937)サングラス¥32,000(ペルソール/サンライズ03-6427-2980)シューズ<スタイリスト私物> 女性/グレーニットカーディガン¥19,000(マリベル ジーン)シャンブレーシャツ¥19,000 白ジーンズ¥26,000(ともにヤヌーク/すべてカイタックインターナショナル03-5722-3684)その他<スタイリスト私物>