悩みの根本は同じ。それは、わかってる
シェアハウスに入居して2週間、美奈のモヤモヤは続いているばかりか、どちらかというと、ひどくなった。
「美奈ちゃん、元気なさそうだけど、大丈夫?」
ある日曜日の夜、リビングに向かっているとバスルームから出て来た沙織に声を掛けられ、一緒にお茶を飲むことになった。
沙織はシェアハウスの先輩で、年齢はおそらく28歳くらい。いつも美奈のことを気にかけてくれる優しい人だ。
沙織は優しく微笑み美奈の横に座った。
「大丈夫です」と一度は言ったものの、沙織の声があまりに優しく、シャワーを終えたばかりの彼女から、心の奥をくすぐられるような、甘くてずっと側にいたいような良い香りがして……。堰止めていた気持ちが一気に溢れだすように、美奈は話し始めた。
「憧れの会社に転職できたのに先輩たちがすごすぎて、委縮しちゃう自分と、変にプライドを持ってる自分がいて、よくわからなくなってきちゃって……」
今まで溜めこんでいた不満を、沙織には不思議と正直にさらけ出せた。彼女は美奈が落ち着くまでずっと、静かに聞いていた。
「すみません。沙織さん話しやすくて、ついだらだら弱音吐いちゃいました」
「ううん、大丈夫だよ。でも、美奈ちゃんって外資系で働くデキる女っていう印象だったけど、ちゃんと悩みがあるんだね」
沙織はそう言って微笑んだ。ちょうどその時、一人の男がリビングに入ってきた。
「あ、司くん」
沙織の声に反応した彼は、大きな荷物を持ってまっすぐ近づいて来た。背が高くモデルのようにスラリと長い手足を持つ男だ。
司「嫌いではない。ただ、思ったことを正直に言っただけ」
司は出張から戻り1週間ぶりに中目黒のシェアハウスに帰ると、美奈という女性を紹介された。
外資系のハイジュエリーで広報をしていると事前に聞いており、イメージしていたのは洗練された落ち着きのある女性。だが、目の前の彼女は笑顔もなく無愛想で、高飛車なオーラを醸し出し、その態度がなんだか鼻につく。
だから初対面にもかかわらず、我慢できなかった。
「あんたさぁ、すっごい無理してるでしょ。“アタシ仕事できるんです”みたいな風を装って、内心はコンプレックスまみれみたいな」
司は学生の頃から正直すぎると言われていた。この性格があまり人から受け入れられないことは司自身も知っている。だが、直そうと思って直るものでもないし、そもそもこのままでいいと思っているのだ。
たとえ、これまでの彼女に同じような理由で愛想をつかされていても、自分を変える気はさらさらない。
美奈にだって、意地悪で言っているわけではない。ただ、正直なだけなのだった。
こうして、美奈と司の物語は始まった。
▶Next:4月3日 月曜更新予定
遠慮のない司を避けるようになる美奈。だが、司はさらに美奈を追い込む……?!
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カーキパンツ¥18,000(すべて22オクトーブル03-6836-1825)その他<スタイリスト私物> 3ページ目左/ネイビーノーカラージャケット¥26,000 白ボーダーカットソー¥12,000 カーキパンツ¥18,000(すべて22オクトーブル03-6836-1825)その他<スタイリスト私物>