料理は、1時間もかからないうちに完成した。見た目は可愛く、でも 毎日食べたくなるような家庭的な味だ。
「ハンバーグ嫌いな男の人っていないよね」
葵が言うと他の受講者たちも同意し、場は一気に恋愛話で盛り上がる。
確かにハンバーグは、剛も大好きだった。杏奈も何回か作ったことはあるが、生焼けだったり火を通し過ぎたり、うまくいったためしがない。それでも今日習った通りにやれば、美味しくできそうだ。
―剛に、作ってあげたいな…。
イベントに行く前は光司のことが気になっていたのに、気づけばまた剛のことを思い出す。女とはゲンキンなものだ。でも、私が勝手に考えているだけだからまぁいいか…。
◆
できあがった料理を皆で食べ、葵が運転するG’s AQUAで帰路に着く。今日のイベントを通して、改めて葵との距離も近づいた。
今日のイベントに誘ってくれた礼を述べ、楽しかったねという話で盛り上がる。
「これで女子力、少しは上がったかな。バレンタインに久々に料理したら、パスタ茹で過ぎちゃってすごくまずくて」
自虐的に言う杏奈に、葵はこう言った。
「今日の杏奈、すごく楽しそうだったよ。こうやって色んな世界見て、肩の力抜いて楽しめばいいよ」
「そうですよね…」
毎日家と会社の往復で、失恋の傷さえ仕事で癒そうと思っていた。それでも気持ちの奥底はどこかどんよりしていて、晴れることはなかった。
落ち込み気味の後輩を思いやって外に連れ出してくれる葵さんは、やっぱり私の憧れの先輩だ。
「剛君と、やり直したい?」
いたずらっ子のような笑顔で葵が聞いてきた。
気になっていた彼からのLINE。知らぬ間に絡み合う2人の女心
その質問と同時くらいに、一通のLINEが届く。「剛君?」そう言われ、まさか、と答えながらスマホの画面をタップする。そのLINEは、剛ではなく光司からだった。
―来週の水曜、ヒマ?今日から出張なんだけど、忙しくてロクなもの食べられなさそう…。ご飯付き合ってくれない?
そのLINEに気を取られていると、運転していた葵は真っ直ぐ前を見ながらぽつりと言った。
「私も、やり直したいな」
光司のLINEに慌てて“空いてるよ”と返し、葵の話に耳を傾ける。葵の珍しく感傷的な口調に、杏奈は「誰と付き合っていたんですか?」と聞いた。すると、葵の口からは、意外な名前がでた。
「実はね、社内なの。しかも2個下、杏奈の同期」
「え…!?」
まさか、と心臓がどくりと鳴る。
「光司君。石油事業部にいる、彼。知ってるよね?付き合ってたのは、1年くらいかな」
葵のその言葉に、思わずスマホをぎゅっと握りしめる。
同期会の帰り道、光司が言っていた「忘れられない人」、それは間違いなく葵のことだ。
杏奈は、呆然とした。
▶︎NEXT:3.10金曜更新
ついに最終回!女性としての輝きを取り戻しつつある杏奈。彼女が選ぶのは、光司?それとも剛?
杏奈も体験した、葉山の料理教室イベントの詳細は こちら
本当の“いい女”を目指す、杏奈のInstagramは こちら