私、港区女子になれない Vol.6

私、港区女子になれない:ヤドカリの如く男を渡り歩く港区女子。女の自立は要らぬプライドなのか?

不安定でも、痛くても。それでも私は、ピンヒールで歩き続ける。


「今回のコンセプト、かなり評判いいですよ。売上も期待できそうだ。」

クライアント先である、某自動車メーカの会議室。進捗報告を一通り終えた後、広報担当の男にそう言って肩を叩かれ、涼子は上機嫌だった。

涼子がチームリーダーを務める新車プロモーションは、佳境を迎えている。毎日息つく暇のない忙しさ。しかしそんな仕事に忙殺される毎日が、涼子を救ってもいた。

仕事に集中していれば、洋輔と香奈のことを考えなくて済むから―。

オフィスに戻る道中、メトロに向かって歩く涼子の耳に、ピンヒールの音が小気味よく響く。

今日履いている靴は、マノロブラニク。まだ新入社員だった頃、多くの女たちの例に漏れずSATCのキャリーに憧れ背伸びして買ったものだ。

華奢なヒールでオフィス街を颯爽と歩くキャリアウーマンは、涼子の憧れだった。その姿は凛として美しく、まさに「才色兼備」の象徴。

しかし、折れそうに細いヒールで歩き続けることはとてつもない痛みを伴うのだと、30歳を目前に、涼子は思い知った。

才色兼備。それは涼子が大好きな言葉で、女性にとって最大級の賛辞。しかし両立し難い2つの要素を併せ持つ、選ばれし者であろうとする女たちは、外からは決して窺い知れない痛みに堪えているのだ。

―それでも私は、自分の足で立っていたい。

ふいに立ち止まり、覚悟を決めるように空を見上げる涼子。大きく息を吸い込むと、もうすぐそこまで来ている春の、匂いがした。


「よう、篠田。お前、最近調子いいらしいじゃん。」

オフィスに到着した涼子の前から歩み寄ってきたのは、同期の大樹だった。法政大学出身の彼は、何かと涼子に対抗意識を燃やしてくる。正直、苦手だ。

「…もしかして、最速出世とか狙ってんの?」

にやにやしながら、涼子の顔を覗き......


【私、港区女子になれない】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo