いい女の条件：最悪なバレンタイン。私が目指す「いい女」は彼から見ると間違いだった？

失恋の翌日の腫れぼったいまぶた。気を紛らわせる方法が、仕事以外分からない

剛と別れた翌日、いつもより早めに出社して仕事に取り掛かった。気を紛らわせる方法が、仕事に打ち込む以外に見つからない。女友達にクダを巻けば虚しくなる気がするし、かと言ってこれといった趣味もない。

「仕事の他に打ち込めることがあったほうがいいよ。仕事ばかりだと息が詰まるし、リフレッシュが必要だよ」

いつか剛に言われた言葉を思い出して、涙が溢れそうになる。急いで化粧室に駆け込み、鏡越しの自分をぼんやり見つめた。昨日泣き過ぎたせいか、心なしか目が腫れぼったい。涙腺が崩壊していて、少しでも気が緩むと涙が溢れそうになる。

「ぼーっとしてるけど、大丈夫？」

そう杏奈に声をかけてきたのは、2期上の先輩・葵だった。葵は昨年マネージャーに昇進したばかりで、抜群に仕事ができる。いつも笑顔で明るく飾らない性格で、プライベートでも度々食事に行く仲だ。剛にも何回か会わせたことがある。

朝の慌ただしい時間だったので詳しくは話せなかったが、葵は何か察したようだ。少し雑談した後、「久しぶりにウチに来ない？」と誘われ、その週の金曜日に早速約束をした。

どんな慰めの言葉より染みるのは…？

「乾杯！」

金曜の21時。駒沢公園近くの葵の家で乾杯した。葵との家飲みはいつもワインだ。杏奈も葵も酒には相当強く、2人で3本くらい空けてしまうこともある。

家という安心感もあるせいか、すぐ酔いが回り剛との顛末を話した。言葉が途切れ途切れになる杏奈の話に、葵は根気強く相槌を打ってくれる。こういうとき、どんな下手な慰めの言葉より有効なのはひたすら話を聞いてもらうことだ。葵はよく分かっている。

杏奈が全て話し終わったあと、葵は誰を責めるわけでもなく「大変だったね」と言ってくれた。

その後、湿っぽくならないようにという気遣いなのか、葵は最近起きた面白い出来事を身ぶり手ぶりを交えて話してくれた。

フットワークが軽く付き合いもいい葵は、いつも話題に事欠かない。趣味で始めたというキックボクシングの話から最近買ったという車の話まで、興味の幅がとにかく広い。

そんな葵が、納車した日に記念に撮ったという写真を見せてくれた。G’s AQUAという車らしい。

スポーティーでありながら、どこか品のある赤い車は葵のイメージにぴったりだ。

「どこに行こうか、考えるだけでウキウキなの」

楽しそうに話す葵の様子に、剛が言った言葉をふと思い出した。

―葵さんはいつも楽しそうでいいよな。杏奈も見習いなよ。

途端に目頭が熱くなり、トイレに行こうと立ち上がった。しかしちょうどその時、LINEの新着メッセージを告げる着信音が鳴る。同期のグループLINEだ。

「来週同期会やります！」

杏奈の代の同期は結束が固く、8年目の今でも定期的に集まっている。

―久しぶりに行こうかな…。

いつもは仕事優先で行かない杏奈だったが、今回は少し迷った。息抜きもたまには必要かもしれない。

気が変わらないうちに「出席」の返信をした。

同期会に出るのは、1年ぶりくらいだろうか。

▶︎NEXT2.24金曜更新
失恋を機に、自分の世界を広げようとする杏奈。そこに思わぬ出会いが…？


本当の“いい女”を目指す、杏奈のInstagramは こちら



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