「菜々香、どうしよう!イケメンから食事に誘われた」
困った時の菜々香だ。華子は早速彼女を恵比寿の『エカオ』に呼び出し、伊原の事を相談した。
「だから言ったでしょ?華子はもともと美人なんだから、ちょっと綺麗にすると男たちが寄ってくるのも当たり前よ」
「どうしよう。でもこれって別にデートじゃないよね?業務内容の意見交換だよね?」
「やだー何言ってるのよ。そんなの口実で、デートに決まってるじゃない」
「デート?どうしよう。着てく服がない!」
華子が身を乗り出して言うと、菜々香は笑いながら言った。
「だからこの前教えたこのサイトで買いなよ」
そう言って、華子に突き付けられたスマホに表示されているのは『NOREN NOREN』。華子も、菜々香に教えてもらって以来、雑誌をめくるような感覚で、移動中の電車でも見るようになったサイトだ。
「で、レストランはどこに行くの?」
菜々香に聞かれて、西麻布の『サッカパウ』と告げると、彼女は言った。
「わお、西麻布で人気のレストランじゃない。それはもう完全にデートだよ」
菜々香は楽しそうに驚くと、華子に顔を近づけさらに続けた。
「じゃあ、『FOGAL』のストッキングだね。ほど良い透明感があって、脚に陰影をつけてくれるから、華子の美脚をより引き立ててくれるよ」
「別に美脚じゃないけど……」
そう言いながらも、結局華子は菜々香の言う通り、ストッキングを買うことに決めた。
カラーバリエーションが多く、何色にするか散々悩んだ末に選んだのは、濃いベージュに近い「taupe」。他にはないニュアンスの色が、上品で気に入ったのだ。
◆
伊原とのデートが迫ったある日、会社でショックな出来事が起こった。
「最近の華子ちゃん、ちょっと調子に乗ってるよね」
広報部の同僚が、そう言っているのを聞いてしまったのだ。華子がお手洗いの個室に入っていると、彼女たちはヒソヒソと声をひそめていたものの、華子は確実に聞いてしまった。どうやら伊原からデートに誘われた事が原因らしい。
女からの嫉妬。これほど避けて通りたいものはない。
これまでADをしていた華子にとって、女からの嫉妬なんて無縁だった。いつも同じような地味な服を着て、ノーメイクで走り回る華子に嫉妬する女なんていなかった。
だから、初めて経験する女からの嫉妬と陰口に、華子は動揺していた。