恋人であるナオミの意見を聞いて、有田を責める気持ちは多少は薄れたが、それでもやはり大変な目にあわされたのだ。そう簡単に有田の事を許せるほど人間ができているわけではない。
―こっちに非はないんだ。
大輔は強い思いを胸に、有田に背を向けたままオフィスがある37階に着くのを静かに待った。
「なあ、ちょっと話せないか」
エレベーターが20階を過ぎた頃、有田から声を掛けられた。大輔が怪訝な表情で振り返ると、有田は口を固く結んだまま大輔を伺うように見ていた。
「すみません、今忙しいので今度にしてもらえませんか?」
大輔は突き放すように冷たい声で言った。
「5分でいいから、時間くれないか?」
もう一度言われて、大輔は大きく深呼吸すると「わかりました」と答えた。エレベーターが37階に到着するのと同時だった。
「例の件は、本当に申し訳なかった」
ラウンジでコーヒーを飲みながら、有田は頭を下げた。周囲の視線を集めるほど深く頭を下げられてしまい、大輔は慌てて「会社でそんなことしないでください」と言ったのだった。
「あれから冷静に考えて、なんて馬鹿な事をしたんだと後悔したんだ。謝って済む問題じゃないことはわかっているが、謝ることしかできないから」
「はい、わかりました。でも正直今それどころじゃなくて、終った事にかまってる暇はないと言うか。とにかく、もう僕に関わらないでいただければそれで良いので、もういいですか?」
大輔はわざと棘のある言い方をして、早々に席を立とうとした。有田は大輔の言葉を受け止めるように、下を向いたまま無言で頷いた。
「じゃあ……」
大輔が椅子から立ち上がり一歩踏み出そうとした時、「なあ」と少し大きな声で有田から呼び止められた。振り返ると有田は、大輔の顔をじっと見て言ったのだった。
「例のアーティストの炎上で大変なことになってるよな。代わりのタレント候補は、すでにいるのか?」
―それを聞いて、また邪魔する気ですか?
大輔は心の中で呟いた。さすがに口に出すことはしなかったが、咄嗟に思った感情はそれだった。だが有田が続けたのは意外な言葉だった。
グローバルエリート大輔
外資系アパレルメーカーに勤める29歳の大輔。
将来は世界を股にかけて仕事する、グローバルエリートになるべく日々奮闘している。
これは大輔が“ある悩み”と向き合いながら、数々襲い来る試練を乗り越え、真の“グローバルエリート”へ成長するきっかけを掴む物語です。