二子玉川の妻たちは Vol.1

二子玉川の妻たちは:幸せな結婚生活の向こう側にある、妻たちの飽くなき欲望。

ピンポーン。

11時5分前。インターフォンが鳴って、由美は急いでモニター画面を覗き込み、向こうからこちらは見えないのだが、自慢の笑顔で客を迎えた。

由美のポーセラーツサロンBrilliantはじめてのお客様。

今日の予約は、1名だけ。しかし、そんなことはどうだっていい。由美はBrilliantをオープンし、レッスンを開催できるだけで嬉しかった。

由美に憧れて、会いに来てくれる人がいることが。

初めてのお客様をリビングに案内しながら、由美は、平日に有休をとり、初めてポーセラーツサロンLuxeを訪れた時のことを思い出していた。

同じ女に生まれたのだから、負けられない。


大理石の玄関にずらっと並んだ、シャネル、プラダ、フェラガモ、ヴァレンチノ…由美は眩暈がした。平日の真っ昼間、ハイブランドの品物を身に着けて集うことができる暇な主婦がこんなに存在していたとは。

そして…集まっている生徒たちの真ん中で、圧倒的な存在感を放つマリ先生。

透き通る白い肌、末端まで手入れの行き届いた髪、ネイル。平凡な和顔が地味にならず、大和撫子の品格を感じさせるのは、自己投資の賜物だろう。

端っこで、会話に耳だけで参加していた由美は、すぐに違和感を覚えた。お金を払って参加しているはずの生徒のほうがなぜかマリ先生に気を遣っていて、すべての会話がマリ先生で始まり、マリ先生で終わるのだ。

そこには目に見えない、しかし絶対的なヒエラルキーが存在している。

由美は思った。同じ女に生まれたのに、この差は何だというのだろう。私はこのまま下位層で終わりたくない。しがない損保OLなんか、やっている場合じゃない。


「そういえば由美先生って、Luxeの卒業生なんですよね。」

レッスン後のティータイム。用意しておいた『ピエール・エルメ』のケーキをお出しして、マリアージュ・フレールの紅茶を淹れる。

ええ、そうなの。と答えながら、由美はさりげなく目線を逸らす。もしかして初めての客―松浦さん......


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