ファブリーズ男の逆襲：パーフェクトヒューマン小倉。“あれ”がクサいと振られた苦い過去

「ベッドがクサい……。ちょっとここじゃムリ」

少しだけ眉間にシワを寄せて、初めて聞く低いトーンの声で告げられた。

「え？……ごめん」

彼女の低い声に、条件反射的に謝った。

「でも、クサい？」

慌てながら腰をかがめてベッドのニオイを嗅ぐが、何も感じなかった。

「別に、クサくないと思うけど？」

「ここに住んでるから分からないだけでしょ？正直、本当にクサくてちょっとムリ……」

眉間のシワは消えるどころか深さを増してしまった。

「まだ電車あるから、帰るね」

言い終る前に彼女は荷物を持ち、玄関の扉へ向かってスタスタ歩いていた。

彼女の背中に向かって「ちょ、待てよ」と声をかけると、一度だけ振り返ったが、そのまま何も言わず玄関の扉は閉められた。そして、彼女からの連絡はパタリと途切れてしまった。

自分のニオイには気付かないという。もし本当に臭うのなら、これまで家に来た女性たちにも同じことを思われていたのだろうか……。確かに、2度目の誘いを断られる事が多かった。もしその原因がベッドのニオイにあったらと思うと、なんだか情けないような申し訳ないような、複雑な気持ちになるのだった。

―俺だってシーツはこまめに洗いたいよ。でも干して乾かす時間なんてないんだよ……！

忙しく働く男の悲痛な叫びは、誰にも受け止められることはなく、小倉はしばらく悶々とした日々を過ごした。

そんなある日、ドラッグストアに目薬を買いに行った時『ファブリーズMEN』を見て、電車の広告に「男の5大臭」を消臭してくれると書いてあったことを思い出し、試しに買ってみた。

実際、自宅で使ってみると消臭してくれているように思えたが、自分でははっきりわからない。そこで小倉はどうしても、ある事を確かめたい衝動に駆られた。

あんなに良い雰囲気だったのに「クサい」の一言を残して消えてしまったカリンに、ベッドのニオイを確認してもらいたかったのだ。

あの手この手を駆使し、どうにかカリンとの連絡を復活させ、もう一度彼女を家に招き入れることに成功した。そして聞いてみたのだ。

「やっぱりクサいかな。ちょっと確かめてくれないかな……？」

少し嫌そうな素振りを見せながらも、彼女は恐る恐るといった様子でベッドのニオイを嗅いでくれた。

「あれ？ぜんぜんクサくない！」

驚いた表情で「あんなにクサかったのにー」と、きゃっきゃと無邪気に笑いながら彼女は言った。
そしてこの再会をきっかけに、カリンと正式に付き合うようになったのだった。

それ以来『ファブリーズMEN』をベッドに振りかけるのが日課となり、その範囲はスーツ、玄関、カーテンと家中に広がった。

結局、カリンとの付き合いは終わりを迎えてしまったが、ニオイの事を気付かせてくれた事に今でも大いに感謝している。そして、この出来事をきっかけに小倉はさらに自信とモテを強化し、その後、F4が誕生したのだった。

F4誕生以来、4人は忙しい時間の合間を縫っては今日のように集まり食事を共にするのだった。もちろん今日も、焼肉を堪能して自宅に帰れば、せっせと『ファブリーズMEN』をスーツやコートに振りかける、強い絆で結ばれた4人だ。

だが今回、新しく入ってきた“広報のユイちゃん”をきっかけに、F4に分裂の危機が訪れることになるのだが、この時の4人はまだ誰も知る由はなかった。


次回12月9日（金）更新
辻が昔の彼女に心をえぐられた、あり得ない一言が炸裂する……！？