恋愛低体温女子 written by 内埜さくら Vol.2

恋愛低体温女子:社内恋愛否定派なのに、まさかの社内男性からアプローチ!?

前回までのあらすじ

「コミュニケーション能力に長けた恋愛上手のほうが恋愛下手より仕事ができる可能性が高い」

この説を全否定する神崎真理子(29)はアパレルの新人プレス。自ら積極的に人を好きになった経験に乏しい、自他共認める“恋愛低体温女子”でもある。

それなのに上司の二階堂隼人にドキッとしてしまい、そのときめきの理由を確かめるため同僚の長倉怜奈(29)に相談をしたが……。


「それってね……」の先を怜奈がなかなか言わないので真理子は焦れて先を促す。

「んもうっ、早く教えてよ!」

「だってマリコ、口あんぐり開けてわたしの言葉を待ってるんだもん、おかしくて。そんな顔されたらからかいたくなるよ」

その言葉に真理子がぷう、と頬を膨らませると怜奈は「解った、解った」と手で制しながら笑う。

「それね、二階堂さんが単にアメとムチを使い分けただけだから。二階堂流の懐柔術ってわけ。あの人いま5つのブランドを統括してるけど、マリコも経験して部下に慕われる理由が解ったでしょう?怒ると怖いけど、しっかりフォローもしてくれるし、褒めることも忘れないんだから。それにしてもさあ、マリコ」

ひと息に言い終えた怜奈がふーっと軽くため息をついた。

「前に彼氏がいたの、何年前って言ってたっけ?」

「……4年前かな」

「4年!」普段から濡れたような艶やかな怜奈の瞳がさらに見開かれる。

「あのね、オリンピックの周期に合わせる必要ないんだから、もう少し恋しようよ。そんなんだからドキドキした理由も解らなくてわたしに聞くはめになっちゃうわけ。マリコの恋愛偏差値、たぶん中学生か高校生レベルだよ。偏差値を上げるには人を見る目を磨くことから練習! 今週金曜の食事会、強制参加ね」

たった半年先輩なのに、怜奈はすでに体育会系気質に染まっているのかも?と思いながら真理子は「うん……」と力なく答えた。



食事会に参加した翌週月曜日。8月の東京はのぼせるほどの猛暑が続いていた。

――きっと駅に着くまでに汗びっしょりになっちゃう。

今日はファッション誌の撮影に立ち会わなくてはいけない日。ファッション誌の編集さんは口には出さなくても細か~いところまでチェックしているはずだから、汗でよれた身なりなんて見せられない。

「プレスルームの化粧室で着替えよう」と、真理子は洋服一式をバッグに詰めた。これはまだプレスになりたてで自社ブランド『M classe』の洋服を豊富に所持していないからだが――他ブランドのシャツとリネンパンツで出社した。

これが運の尽きだった。化粧室に入って着替えようとしたちょうどその姿を二階堂に見つかってしまったのだ。

「神崎、いま着てる洋服、どこのブランドだ?」

朝の挨拶もそこそこに二階堂があのきつい目つきで睨んでいる。

――何で一瞬で見抜くのよう……怖いよう……。
とあとじさりしながら「あの、これは……」と化粧室に入ろうとしたが、二階堂は当然それを許さない。

「何度言ったら解るんだ!神崎、お前はブランドの顔なんだぞ。通勤でも休みの日でも『M classe』を身につけるのは基本中の基本じゃないか。神崎が他のブランドの洋服を着てるところを見られたら、笑われるのはウチの会社だってことを忘れるな!!」

ファッション誌の編集さんに少しでもいい印象を与えたくて、あえてこのお洋服を着てあとで着替える予定でした――と伝える猶予すらもらえないのが悔しい。それにまたしても二階堂の言っていることは正論だ。

「すみません!すぐに着替えます!!」

深く頭を下げた直後に真理子はせわしなく化粧室の扉を開けた。

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