崖っぷち結婚相談所 Vol.2

崖っぷち結婚相談所:結婚相談所という禁断の領域。エリート美女が、市場価値を算出される!?

重い腰を上げ、結婚相談所のパンフレットを吟味すると...?


結婚相談所のパンフレットにざっと目を通したところ、登録料の相場は3~5万円、入会金は10万円前後、月額料は1.5~2万円。そして、成婚料は20万円前後といったところだ。

高給取りの杏子にとって、特に高額でもない。むしろ本当に素敵な結婚をすぐに提供してくれるのならば、100万円即金で払ってもいいとすら杏子は思ってしまう。

また結婚相談所は、基本的には「コンシェルジュ型」と「イベント型」に分かれるらしい。イベント型の場合は月額料は取られず、イベントごとに課金されるシステムのようだ。

イベントとは、よく耳にするお見合いパーティのようなものだ。杏子はもちろん、番号札なんかを付けてパーティに参加するのは御免だ。万一知り合いに遭遇したりしたら生きていけない。

入会するならば定期的に直接男性を紹介してもらえるコンシェルジュ型だと、杏子は目ぼしい結婚相談所をピックアップし、とりあえず初回無料カウンセリングの予約を入れた。

単純に、価格が一番高い相談所を選んだ。価格とサービスは比例するに違いないし、窓口がオフィスのある丸の内から少し遠い渋谷にある点も好都合だった。

とうとう足を踏み入れた、結婚相談所は...?


「はぁ......。」

数日後、その結婚相談所の前で、またしても杏子は大きな溜息をついた。とうとう自分はこのレベルまで堕ちたのだと思うと、やはりプライドが疼く。

踵を返したくなるのをぐっと堪えてドアを開けると、そこはまるで美容皮膚科の受付のような雰囲気だった。40代後半くらいの小綺麗なスーツ姿の女性が、ホスピタリティの塊のような笑顔を浮かべている。怯みながらも杏子が名前を告げると、「お待ち致しておりました」と丁寧なお辞儀とともに奥の個室に案内された。

「まずは差支えのない範囲で結構ですので、こちらをご記入してお待ちください。」

テーブルの上には、健康診断の問診票のような書類が置かれていた。住所や生年月日はもちろん、学歴、年収、趣味、家族構成、身長体重など、事細かなデータを記載するようになっている。


「婚活アドバイザーの直人と言います。よろしくお願い致します。」

出された甘ったるいアイスティーに口を付けたところで、急に若い男が勢いよく部屋に入って来たので杏子は一気に緊張した。

「お客様は、コンシェルジュのプランをご希望ですね。では、まずは結婚相手の希望など伺ってもよろしいですか。」

婚活アドバイザーを名乗る男は、杏子のプロフィールにざっと目を通し、真顔で杏子を見つめた。杏子は自分の顔がジワジワと赤くなるのを感じる。何を隠そう、この婚活アドバイザーと名乗る男は、稀に見る超イケメンなのだ。しかも、年齢もさほど変わらないように見える。

―こんな王子様のような顔をした同年代の男に、私は情けない心境を暴露しなくちゃいけないの...orz

歯に衣着せぬ、婚活アドバイザー。杏子の市場価値は?


「今日は少し話を聞いてみたいな、と思って来てみただけなんです。特にまだ結婚を真剣に考えてるわけじゃないんですけど、結婚相談所って、どういう感じなのか知りたくて。」

杏子はまたしても、プライドを守るため受け身の態勢をとった。

「失礼ですが、それは本心ですか?でしたら、杏子さんは当分の間は結婚はしなくていい、という理解でよろしいですね?」

「いや、そういうわけではないんですけど、その...。」

「もし、それなりに結婚願望があって弊社に足を運んでいただいたなら、無駄なプライドは捨ててください。」

直人の声は、厳しくなった。

「杏子さん。自覚はあると思いますが、貴方は美人で、32歳。まだ需要は高いです。言い換えれば、貴方の女性としての市場価値は、今はまだ高い。しかし年々、いや月々、その価値は落ちて行きます。これは事実です。結婚をご希望なら、すぐにご入会をお勧めします。僕が全力でアドバイスをさせて頂きます。」

金融業界にお勤めなら相場には詳しいでしょう、と、彼は杏子を睨みつけるように言い放った。何もかも見透かされたような物言いに、杏子は言葉が出ない。

直人の言葉は杏子のプライドを軽々と越えて胸にグサグサと刺さったが、それは同時に不思議な説得力があった。

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