村上春樹好きな男 Vol.1

村上春樹好きな男:渋谷のBARで「ノルウェイの森」という名のカクテルを飲むということ。


「村上春樹」の作品は好きだろうか?

彼の作品に登場する男たちは、飄々としながらBARではピナ・コラーダを飲み、自宅のキッチンでは読者の食欲をそそるスパゲッティを作ってしまうほど、料理が上手い(と思われる)。そして決まって、何もせずとも女が寄ってくる。

そんな村上春樹作品を好む男たちが少なからず東京には存在し、そんな「村上春樹好きな男」が好きだという女たちも少なからず存在する。あるいは、「気になってしまう」と表現した方が、正しいかもしれない。

「村上春樹好きな男」が気になってしまうという桃子が、彼らハルキストの生態を観察していく。


今週の村上春樹好きな男


名前:柊(しゅう)
年齢:35歳
職業:大手総合商社勤務
出身:埼玉県川口市
学歴:北海道大学法学部卒業
住まい:目黒
交際ステータス:既婚、息子12歳、娘10歳
好きな村上春樹作品:「ノルウェイの森」「螢・納屋を焼く・その他の短編」
村上春樹の次に好きな作家:中島らも


その食事会で、柊は一番目を引く男だった。

切れ長の涼し気な目とまっすぐな鼻筋、180センチを超える長身に適度に鍛えた身体。一目見て上質と分かるスーツをセンスよく着こなす彼を見て、普段はハラハラするほど口の悪い友人の美里ですら「いい男。ほら、おしりの形が最高。」と彼女らしい口調で絶賛した。

そのルックスに加えて、大手総合商社勤務でスペックも申し分ない。ほかの男が自慢話をしたり女性陣の外見を褒めたりと忙しそうに騒いでいる間、柊は感じの良い控えめな笑顔で静かにウィスキーを飲んでいた。

桃子は、本当にモテる男の人ってこんな感じなのかもしれない。と、諦めにも似た気持ちで彼を眺めていた。

予期せず始まった、柊との穏やかで不思議な関係。


翌日に柊から連絡がきたとき、桃子は純粋に驚いた。桃子は絶世の美女というわけではないし、若くもないし特別な才女でもない。柊に釣り合う女だとは思えなかった。

定期的に食事に行くようになり徐々に関係は深まったが、なぜ柊が自分を気に入ったのか、そもそも柊に気に入られているのかさえ、わからないままだった。

2人は桃子の仕事の話や、柊が大学時代を過ごした北海道の話、最近見た映画の話といった、当たり障りないが、穏やかな会話を楽しんだ。柊はいつも我が子を見るような優しい目をして桃子の話を聞いてくれた。「分かるよ。」とか「悪くない。」とか、小気味良い相槌をうちながら。

たくさんの幸せな時間を過ごしたけれど、どれだけ笑いあっても、彼はなぜかいつも遠くにいるような気がして、その距離は全く縮まる気配がなかった。それでも、心に土足で踏み込むことのない柊との関係はとても心地よいもので、不思議と寂しいと思うことはなかった。

他に女がいるのかしらと思ったが、嫉妬は湧いてこなかったし、ましてや彼を自分のものにしたいなんて一度も思わなかった。

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