夏に食べるべき寿司講座:今こそ旨い、必食の寿司ダネとは?

見よ、この小ささを! 一尾ずつ気の遠くなるような下ごしらえをこなさないといけない。新子は職人泣かせの魚なのだ。

なかなかに興味深い、美味なる新子の舞台裏とは?

夏に美味しいネタを色々と見てきたが、やはり別格の扱いなのは新子だろう。なんせ、仕入れ額はコハダの約10倍!

ひと箱1kgで10万越えの値段が付くことも珍しくないというから驚きだ。それでも、新子が市場に出れば、寿司屋の争奪戦になるという。

なぜゆえ新子がここまで人気なのか? その理由がおもしろい。

開いた新子は塩を振り、6~8時間寝かせる。浸透圧で水分が抜け旨みが増すこの工程は、江戸前寿司でもっとも重要な工程だ

新子とは、「江戸っ子の見栄」なのだという。

すぐ成長してコハダになってしまうため、新子と呼ばれる時期はごくわずか。7~8月頃限定の貴重な味わいだけに、多少痛い出費をしても食べたい夏の風物詩として、昔から見栄っ張りの江戸っ子に愛されてきたそうだ。

昔は新子はこんなに一般的な寿司ダネではなく、知る人ぞ知る存在。かつては漁網の目が今よりも粗く、魚体の小さい新子は網目から逃げていたため、そうそう食べられるものではなかった。水揚げ後のコハダに混ざった稚魚を、漁師や料理人が探し出して使ったのだそうだ。

『鮨 からく』では、海老のすり身で作ったおぼろを、シャリと新子の間に挟んで握っている。ほのかな甘みが新子の味を引き立てる。

江戸っ子の初もの好きはカツオなどでも知られるが、この新子もしかり。希少な新子が夏の訪れを告げる魚としてもてはやされるようになり、現代の争奪戦へと繋がるのだ。

夏が来たと分かると新子を求めてしまう我々の思考回路は、しっかり江戸時代のDNAを受け継いでいるのである。

見せてもらった仕込み前の新子は、大きさ約5cm。しかし、小さくとも魚は魚。ウロコやワタ、骨を取って開きにする仕込みが必要だ。と、戸川氏がおもむろに眼鏡をかける。新子の下ごしらえには、かなり度の強い眼鏡、そして我慢と根気が不可欠なのだ

左の握りから順に、コハダ、3枚付けの新子、6枚付けの新子。最高11枚付けの新子を握ったと話す戸川氏、「さばくだけでも骨が折れた」そうだ。

新子の握りは、もはや寿司屋の意地!

さらに『鮨 からく』では毎年、新子用にザルやボウルなどの調理器具を一新している。ほかの魚のにおいが付かないようにするためだ。

そこまで気を使わないと、すぐに生臭くなる新子だが、臭みをなくそうとして洗い過ぎれば、味もほとんどなくなる。

「正直、新子自体には元々旨みも味も少ない。美味しいと思わせられるかどうかは、職人の腕次第なんです」と戸川氏。

バランスが極端に難しい新子は、もはや寿司屋の意地の見せどころなのだ。

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