東京いい街、やれる部屋2 Vol.2

東京いい街、やれる部屋2:参宮橋で少女漫画のような展開がキタ

巧とタクミは同じ名前でも現実では違かった……?


飲み始めてから二時間が経ち、店もそろそろ閉店に近づく。この間のパターンと一緒であればここらでお誘いもきそうな雰囲気だ。「彩乃ちゃん」と名前を呼ばれ、グッと構える。今日はそうなっても……と思っていても、やっぱりこの瞬間はドキドキする。

「もう遅いし、今日は帰ろうか」

え? と拍子抜けしてしまう。そして自分は何を考えていたのだろう、と恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。確かに漫画のタクミは信号待ちでキスをして「俺もせっかちだな」なんて言うけど、現実の巧くんは違うのだとここでやっと理解する。

お会計も済ませ、じゃあと席を立ち外に出る。5月とは言え、夜はまだ寒い。一人で帰るのは少し寂しいなと思いながら、目黒に行くため山手線まで二人で歩く。巧くんは”参宮橋”に住んでいるから、新宿南口までしか一緒じゃない。短い距離が名残惜しい。改札口の前に着き「じゃあ」と中に入ろうとすると、腕をいきなり掴まれる。

「やっぱりまだ一緒にいたいんだけど」

どの少女漫画でも登場するこの台詞を言われて”嬉しくない”と思わない女はいるのだろうか。ましてやそれが自分のいいなと思っていた人だったら? 一気に気持ちが上昇し、気づいたら彩乃は頷いていた。

「家に彩乃ちゃんと飲みたいと思っていたワインがあるんだ」とさりげなく手を繋がれ、タクシーに乗り込む。参宮橋まで、という言葉を聞いて家に行くことを決意。タクシーは甲州街道をまっすぐ進んでいき、西参道方面に入ると参宮橋駅が見えてきた。その先にあるコンビニで降ろされたあとは、飲み物を購入して坂を登っていく。十字路のすぐ右にあるのが巧くんの分譲マンションだった。

都市開発と昔ながらが混ざった不思議な街


部屋に入ってからは沈黙になるのが気まずくて、いつもよりおしゃべりになってしまう。「参宮橋って、新宿にも渋谷にも近いのに騒がしくないんだね」さきほど坂を上がっていたとき、夜が遅いためか人があまりいない印象だった。また駅前には飲食店が多く、牡蠣が美味しいという『ミトラタカセ』や、居酒屋と不動産屋の間にある狭い入り口のカフェ『ももちどり』などオススメばかりだと聞いた。

巧がもともと参宮橋に住もうと思ったのは、渋谷にある自分のオフィスに自転車で行ける近さであることが一番だった。最初は代々木公園や代々木上原と考えていたが、家賃の違いに驚き不動産屋のススメでここにしたという。

住んでみると夜は確かに静かで、近所のスーパーには近い。外では仲の良いおじいちゃん&おばあちゃんカップルが、何を買うか毎日話しているところが見えたり(聞こえたり)する。都市開発の進んだマンションが建っているかと思えば、昔ながらの物件が混ぜあわさる不思議な街。

そして巧の部屋は広さ10畳くらいの1DKに、テレビ、ソファ、ベッド、テーブルと必要最低限の家具が並べられたシンプルな部屋。基本は白で統一されており、そこにこだわりを感じた。二人はソファに並んで座りながらワインを飲んでいる。

「彩乃ちゃん、さっきから喋ってばかりだね」

何かを見透かされたように巧がトーンを落とし話しかけてくる。ちょっと緊張しているみたい、なんて返そうとすると顔が近づき話を遮られた。

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