日比谷線の女 Vol.3

日比谷線の女:早稲田出身自称やり手営業マンと、八丁堀で迎えた苦い朝

前回までのあらすじ

過去に付き合ったり、関係を持った男たちは、なぜか皆、日比谷線沿線に住んでいた。

そんな、日比谷線の男たちと浮名を流してきた香織は、上京後立て続けにタワーマンションに住む2人の男と付き合った。だが、どちらの恋も短くあっけないものだった。「東京らしい恋愛と結婚」を追い求める香織が、次に出会った相手とは……?

日比谷線の女 vol.2:弁護士の彼に「下流」の烙印を押された、広尾ガーデンヒルズの夜


日が長くなったことに2016年春の訪れを感じながら、改札口から地上へ出ると、香織は既視感に襲われた。

八丁堀は初めて来る街だと思っていたが、自分はかつてここを訪れたことがある気がする。

香織は記憶の奥深くに、この街での思い出があるように思えて仕方がないのだが、それをはっきりと思い出せないまま、新大橋通りと鍛冶橋通りの交差点を渡った。

今日は同期の真希と八丁堀で会う約束をしている。正確には、元同期と言った方が正しい。

真希は入社5年目の秋に退職したのだ。趣味だったネイルを本格的に学ぶと言って、退職後はスクールに通いネイリストになった。そしてつい最近独立し、八丁堀に自分のネイルサロンをオープンしたのだ。香織は3ヶ月後の結婚式でも、真希にネイルをお願いするつもりでいる。

なぜ八丁堀を選んだのか不思議だったが、真希に言わせると八丁堀や隣の築地は銀座が徒歩圏内のため、銀座で働く女たちも住んでおり需要はあるがネイルサロンは少ない、穴場とのことらしい。

今日は真希イチオシの『マル』へ行く予定だが、予約の時間より30分早く着いた。真希はおそらくまだ仕事をしているだろうから、一人でお茶でもしようとぐるりと街を見渡すと、やはりこの街を知っていると香織は確信した。

ビルがあったと記憶している場所はコインパーキングになっているが、20代の頃、確かにここに来たことがある。そう、新大橋通りを挟んで目の前に建つ、およそ15階建てマンションの3階、おそらく左から2番目か3番目の、今はカーテンが引かれているその部屋の中を香織は知っている。

その部屋は玄関を入ると左に小さなキッチンがあり、ガラスがはめ込まれた白いドアを開けると10畳ほどの部屋につながる。

ベッド、テレビボード、メタルラックがあり、数冊の雑誌や靴下が点々と床に散らばっていた。

おしゃれとは程遠い、インテリアに無関心な男の部屋だった。

そこで1度だけ肌を合わせた男。名前は確か陽介だ。

カフェを探すついでに、当時のことを思い出せないかと、香織は少しだけこの街を歩いてみることにした。

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