※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。
前回までのあらすじ
結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない2人。夫・太一の浮気に勘づいた愛子。6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛と自分も浮気する気でいたが、寛にその気はなく未遂に終わる。太一の浮気相手・葵は愛子に対する嫉妬心が募り、ついに2人のマンションを突撃した…!
東京DINKS第11話:女の嫉妬心を甘く見ていた、男の悲劇がついに始まる…!?
葵が「初めまして」と言うと、インターホンの向こうから少し間を空けて「はい?」と疑問形の返事が返ってきた。不審に思っているであろう愛子に向かって、葵は続けた。
「私、あなたのご主人の太一さんとお付き合いしてます、山内葵と言います。今日は愛子さんにお話があって来ました。急ですがちょっとお時間いただけませんか?」葵はカメラに向かって淡々と喋った。
「え、はい…?」愛子は明らかに動揺していた。
葵は、戸惑う愛子に向かって「お時間いただけませんか」と、もう一度言った。
◆
ホテル1階のダイニングカフェで愛子と葵は向き合って座っていた。2人が注文したソイラテはカップに半分以上残ったまま、すっかり冷めてしまっている。
店に入って席に座るなり、葵が太一との出会いから、どんな関係であるか、どのくらいの頻度で会っているか、初めての夜の事…そういった2人のこれまでのことをひとしきり喋った。
愛子は初めこそたまに「そう」と返していたが、葵の声を聞くほどにイライラが募り、次第に言葉をなくした。
「で、…葵さん?あなたはどうしたいの?何のために私に会いに来たの?」葵の話が落ち着いたタイミングで、愛子がイライラを隠さずに言った。
葵は愛子の言葉にかぶせるように返した。「あなたも昔付き合ってた石黒寛さんと今も会ってますよね。あなたも浮気してますよね。それって結婚してる意味あるんですか?」
葵は、今日一番言いたかった言葉を口にした。
寛のことを調べたのかと、愛子は一瞬ひるんだが、寛とのことで太一に知られて困るようなことはしていない、と気持ちを落ち着かせた。幸か不幸か、寛との間に既成の事実は、結果として結べなかったのだから。
愛子は大きく息を吐いて言った。「太一と別れろって言いたいの?」
「ええ、そうです。結婚している意味がないんだから別れてはいかがですか?太一さんも私の家から帰る時、自由になりたいって何度か呟いてましたよ。」
葵の言葉を聞いて、愛子は鼻で笑った。
—自由になりたいなんて、言ってくれるじゃない。私は一度だって束縛したり、ましてや自由を奪った覚えなんてないわよー
「あなたと私では’結婚の意味’は違うと思うわよ。価値観の問題だから。で、もし仮に私たちが離婚したら、あなたは太一と結婚するの?そんな話もしてるの?」
「しますよ。まだ、具体的な話はしてないけど、太一さんだってそう思ってるに決まってる。」
葵の勢いは少しだけ衰え、その言葉を最後に沈黙が訪れた。
この記事へのコメント
コメントはまだありません。