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東京DINKS Vol.10

東京DINKS:六本木のステーキハウスで露呈した、DINKSの絆の脆さと危うさ

※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。

夫・太一の浮気に勘づいた愛子は、6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛と2回目のデートに出かけた。一夜を共にする気でいた愛子だったが、寛には全くその気はなく、自信を喪失。太一の浮気相手・葵は、太一に本気になり始め、愛子に対する嫉妬を膨らませていた…。

東京DINKS第9話: 男の心を探るべく、臨戦態勢に入った女たちの焦燥と暴走…!?

寛との2回目のデートで苦々しい思いをした愛子は、あの時味わった惨めな気持ちから、まだ立ち直りきれずにいた。ヒールに傷が入ったルブタンは、すでに修理に出して美しい姿を取り戻したが、愛子の心が晴れるには、まだ少し時間が必要だった。

あの日から、寛とは連絡を取っていない。前回はお礼のメールを寛からくれたのに、今回はそれがないことが余計に愛子を落ち込ませていた。


仕事を終えた夜、愛子がワインとサラダで簡単な夕飯を済ませた頃、太一が珍しく早い時間に帰ってきた。

「ちょうど仕事が落ち着いたから。」そう言って上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながらリビングのソファに座った。太一は最近、葵が自分に本気になってきていることを感じ、会う回数を減らしているのだ。好きになられるのは嬉しいことだが、本気になられることを太一は望んでいない。

愛子もダイニングテーブルからソファに移動し、太一の隣に座った。愛子は少しの後ろめたさを感じながら太一の顔を見ると、ばっちり目が合ってしまい、一瞬戸惑った。

「ん?」という顔で愛子を見る太一に、愛子は「いや……」と一瞬口籠った後、頭をフル回転させ話題を探した。

「あ、今度の土曜日は国立新美術館でやってるメディア芸術祭に行くから。」

咄嗟にそう返した。太一は怪訝な顔をしたかと思ったら、すぐに何かを閃いたような顔に変わった。

「あぁ、あれか!俺、東村アキコが賞を獲った漫画好きで読んでたよ。国立新美術館も中に入ったことないから行ってみたかったんだ。誰と行くの?1人なら俺も行きたいな。」

『かくかくしかじか』を太一が読んでいたなんて、愛子は知らなかった。いつ、どこで読んだのか、気になったがそこには触れない。寛とのことで頭がいっぱいだったこともあるが、愛子はあえて太一の浮気疑惑を深く考えないようにしていた。

太一が浮気をしているのなら、その現実を突きつけられることも、自分が太一を追求しお互いが消耗することも、とにかくそういう面倒なことに対峙することから逃げているのだ。

それに、寛さえその気になっていれば自分も浮気をしていたのだから、そんな自分には、太一を責める資格はないとも思っている。

「1人で行こうと思ってた。じゃあ、一緒に行く?」

愛子が言うと太一は笑顔を向けた。2人で一緒に、食事やスーパー以外で出かけるのは、今年に入って初めてのことだ。こうして2016年初の夫婦デートが始まった。

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東京DINKS

国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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