慶應ガール、29歳 Vol.4

慶應ガール、29歳:出世か?実家の後継ぎか?メガバンク勤務の女、人生に迷う


大学時代「慶應ガール」と呼ばれ、華やかなイメージを持たれていた彼女たち。そんな彼女たちも、キャンパスを飛び出て7年、30歳を目前に転換期を迎えていた。卒業後の7年間でいくつもの「人生の選択」を積み重ねてきた。

自分の生き方にはそれなりに満足している。しかし、自分が選ばなかった選択肢で生きる同窓生を見ると、隣の芝は青く見える。「結婚=寿退社」ではなくなった今、彼女たちが選んだ選択とは。

慶應大学の卒業生の上位就職先(2014年度)はどこか、ご存じだろうか。同大学が公表しているデータによれば、全学部合計ではメガバンク3行がトップ3、しかも2年連続なのである。1行あたり100~150名程度の慶應生が送り込まれているというから驚きだ。今回は、メガバンクで働く「慶應ガール」の人生を追る。

<今週の慶応ガール>

氏名:倉橋 茜(29歳)
職業:メガバンクの国際部門勤務
学部:法学部法律学科、国際法のゼミに所属
年収:約800万円
住居:神楽坂の1DK(家賃12万円)に3年前から在住。
出自:長野県。県内有数の進学校出身で才女。長野で繊維業を営む家庭の長女。次期社長候補の弟が一人
恋人:健人。一橋大学卒業後、大手不動産会社の本社勤務。茜とは高校時代からの付き合いで、婚約者。

国際部門と言えば、メガバンクの中でも1、2を争う花形。「典型的な日本企業」「男性中心」という印象が強いメガバンクの中でも、女性や他社からの転職者、外国人の比率が高く、ダイバーシティに富んだ華やかな部門である。

彼女は、海外の金融機関向けに銀行間資金決済等のサービスを提案する仕事をしている。お客様が海外の金融機関であるため、必然的に海外出張や深夜・早朝の電話会議が多くなるが、それを苦ともせずに日々を過ごしている。


今週は、シンガポールに出張だったようだ。

東京行きの飛行機に乗るべく、チャンギ国際空港に降り立った茜。黒髪のボブヘアに整った顔立ち。背は154cmと小柄ながらも、薄くストライプの入った細身の黒いスーツを着こなし、空港のロビーを颯爽と歩いている。

右手にはスーツケース、左腕にはCÉLINEのバッグ。エレガントさが気に入って使っているらしい。さすがは世界屈指のハブ空港。巨大すぎて迷いそうな場所だが、それでもスムーズに出国手続きができるのは、茜が出張慣れしているからかもしれない。

早々に手続きを終え、搭乗時刻を待つ。カフェでコーヒーを飲みながら、スマホでLINEのメッセージを送っていた。東京にいる恋人である健人にだ。

「おつかれー!やっと終わったよー。これから日本に帰るよ。お土産ちゃんと買ったからね♡」

先ほどまで取引先と交渉をしていた、「仕事のデキる女」とは思えない文章だ。しかし、健人の前ではいつもこのような感じである。何しろ彼とは高校時代からの付き合いで、気心の知れた仲なのだから。

人生を大きく揺さぶる、父からの提案


その週の週末、茜は長野から上京する父と会うことになっていた。婚約者の健人を呼んで、3人で食事をしたいという。

予約したのは、湯島にある明治4年創業のすき焼き・しゃぶしゃぶの店、『江知勝』。文明開化と共にブームとなった「牛鍋」の味を現代に伝える店だ。茜は、かつて文学好きな母が父と共に上京した際、「明治・大正・昭和の文豪たちに親しまれた店がある」と言って、この店に二人を招待した。そして今回も、「またあのすき焼きが食べたい」と父がリクエストしてきた。

茜と健人は、父より少し早く「江知勝」に足を踏み入れた。

門をくぐると、情緒ある庭と上品な女将が迎えてくれる。さすが、100年以上の歴史がある老舗だ。深緑の落ち着いた色合いと石畳の庭は、来た者を古き良き時代へとタイムスリップさせてくれる。

二人は趣のある個室に通され、父が来るのを待った。

しばらくすると、父がやって来た。店の女性が供してくれた小鉢をつまみつつ、日本酒に手をつける父。いつもに増して、酒のペースが速い。

「茜、タケちゃんと結婚した後も仕事は続けるのか?」
「うん、今は結婚しても仕事を続けている人がほとんどだし……」
「でも、出張が多い仕事だろ。世間じゃ『仕事と家庭の両立』なんて言ってるけど、現実問題、ムリなんじゃないか」

健人は茜が今の仕事にやりがいを感じていることは、十分に理解していた。「世界を股にかけて仕事をしたい」という彼女の希望は、今、まさに叶っているのだから。

高校時代からの付き合いで、同時に長野から上京し、励まし合って生きてきた茜は、健人の婚約者でもあり、戦友でもあった。そんな戦友がいるから、彼もそれに仕事を頑張ってこれたのだ。だから彼女の意向も尊重したい。

「茜、タケちゃんと一緒に長野に戻って、うちの会社を継がないか?」
「えっ、孝太郎は?」
「孝太郎には継がせられん!あいつはチャランポランすぎる。社長の器ではない」

目を丸くする二人。

孝太郎とは、茜の弟で倉橋家の長男である。その孝太郎には、最大の弱点があった。昔から誰もが認める「お調子モノ」で、社長をやっていけるような器ではなかったのだ。薄々気づいてはいたが、まさか父が自分を社長候補に考えているとは思ってもみなかった。だから、東京で今の仕事を続けるつもりでいたのだ。

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