一本入魂のスティックとは……
もはやすっかり毒気が抜けた晃一。ただ、ここで"もてなし男子"としての意地がでる。
「あ、そうだ、帰る前にデザートはどう?さっきのお店で食べられなかったし」
純粋に自分が好きで冷凍庫にストックしていた物を最後に勧めていた。
これに対して、実は甘いものならまだ食べられそうな気がしていた梨紗。反射的に「あ、うん。」と素直に返事をしてしまう。
「これさ、ちょうど今日梨紗ちゃんが食べたがってたチーズケーキみたいなアイスクリームだよ」
「え~、すごいじゃん!」
「これ、前から好きだったんだけど、最近新しくなったんだよね。それで食べてみたら、すごくツボでさ。梨紗ちゃんが好きな”濃厚感”が味わえるよ」
「チーズスティックっていうんだ。へえ〜、ゴーダチーズが入ってるって書いてある。私、ゴーダってチーズの中で一番好きなの、コクがあってマイルドで。」と興味深々でパッケージを開ける梨紗。
ひとくち食べて、梨紗は目を見開く。
「うわぁ~~~濃厚!!すごい!濃厚感、半端ないねこれ!」
「でしょ、びっくりするでしょ?これ赤ワインも合うと思うんだけど、せっかくだから飲まない?」
「うん!」
もっとも考えずにとった行動、「冷凍庫に買い溜めたアイスを勧める」で、まさかの形勢逆転である。
晃一にとっては全く予想外の展開だったが、今日イチの”極上スマイル”を手に入れられた喜びに、心の中でガッツポーズをする。
(チーズスティック、ナーーーーイス!)
梨紗はというと、チーズスティックの多幸感と赤ワインで早くもほろ酔い気分だ。
(お酒もアイスも美味しいし、そういえばさっきからの一生懸命な感じも、"愛すべきかわいさ"って気がしてきた)
上機嫌の梨紗にここぞとばかりに畳みかける晃一は、ここで決めゼリフを放つ。
「あのさ、これ絶対ハマるから、食べたくなったらうちにいつでも来ていいからね」
「大丈夫、食べたくなったら、自分で買うよ」
「……ですよね。」と寂しそうに残りのチーズスティックを食べる彼を見て、またかわいさがこみ上げる彼女は、ふとあることを思いついて不適な笑みを浮かべる。
「あ、じゃあ、終電だから帰るね」さっさとコートを羽織り、帰る支度をする。
「そっか…送るよ」
ショックを隠しきれない彼をみた梨紗は「大丈夫。またね。」と、そういって満足そうに家を後にしてしまった。