崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.10

崖っぷちアラサー奮闘記:自宅の前で待ち伏せする不審な女性と、連絡のつかない求婚者……

前回までのあらすじ

北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。芸能界で活躍したが、徐々に干されて今に至る。就職活動をしようにも、「綺麗」以外の特性がないため続々と不採用通知を受け取る。

そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされ、夜蝶デビューを果たした。

働き始めてから元彼の拓海と再会した際、プロポーズされるものの、世の中はそれほど簡単に物事は運ばないようで……。


第9話:崖っぷちアラサー奮闘記:私が専業主婦?元カレのオファーは希望か墓場か

「あなた、北岡涼子さんですよね?」

初対面の女性が自宅の前で自分を待っていて、しかも自分のフルネームを知っていることに涼子は驚愕した。なにも言えずにいると、女性が頭を下げつつ自己紹介をする。

「突然お邪魔してすみません。わたし、田中麻由子と申します。わたし、あの、その……拓海さんの……」
拓海の名を出されて涼子はピンときた。麻由子は拓海の元彼女だ。

だが、不信感が拭えない涼子は麻由子に聞く。
「どうしてわたしの名前と家を……?」

すると、また「本当にすみません」と麻由子が深く頭を下げる。

「わたし昔、彼のスマホを勝手に見てしまって、北岡さんのお名前は存じ上げてました。あの、今週おふたりで『はまの屋』にいらっしゃいましたよね。わたし、偶然居合わせて話を聞いてしまって。それで、悪いとは思ったんですけど、北岡さんの後をつけてこの場所を知りました」

偶然居合わせる? 雑多な人間が群居するこの広い東京で、そんな巡り合わせがあるのだろうかと首を傾げたくなった。

なぜあの日『はまの屋』にいたかを聞きたかったが涼子は黙り込んだ。麻由子の自分を見る目と態度がどこかおどおどとしていて、しおらしくさえ見える。拓海から聞いていた麻由子像とは結びつかない思いが、言葉を失わせていたからである。

――別れ話をするたびに泣き喚いて、自殺未遂騒ぎまで起こしたと聞いてたから、もっと勝ち気な人だと思ってたけど。
しかも、いま告げた三度目の「すみません」は、心の底から申し訳なさそうに涼子には映る。

「それで、どういったご用件でウチに?」

涼子が聞くと、目を伏せながら麻由子が言った。

「お節介なことは重々承知してるんです。だけど、どうしても北岡さんにお伝えしたいことがあって。北岡さん、彼の本当の顔知ってますか?」

そう前置きして、実は……と語る麻由子の話に、涼子は唖然とした。思わず「嘘……!」と言葉が漏れる。

「本当なんです。わたしはもう、彼のことは忘れると決めたからいいんです。でも、自分のように悲しい思いをしてほしくなかった。それだけを伝えたくて今日は来てしまいました」

それでは失礼します、と言って去る麻由子を見送らず、涼子は慌てて家のなかへ入った。

――すぐ拓海に確かめなくちゃ。
だが部屋へ入ってスマホを取り出した瞬間、操作する指が止まる。

――電話で聞いてどうするつもりなの。言葉で説明されたってきっとわたしは納得しないのに。それに、電話で話しても感情的になってしまうだけかもしれない――。

ためらった挙句、涼子は拓海にLINEをした。
「次はいつ会える?」
しかしその夜、拓海からの返信はなかった。

涼子のLINEに拓海が返事をしてきたのは、月曜に入ってからだった。

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