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  • 猛烈営業マン 飛沢恵介:勝負の24時間に密着!


    — なにこれ?かっこよすぎ…… —

    いかにも高級そうな革張りの黒いシートがずらりと並んでいる。テンションが一気に上がり、さっきまでどこかしら感じていたアルコールの残骸が、ふっと消え去っていく。

    自分の席を確認し、いざシットダウン。
    ゆったりとした革張りのシートが、昨夜遅くまで鞭打った体を包み込む。足も伸ばせるその広い座席間隔は、ただひたすらに癒しを求める今の恵介には救い以外の何物でもない。

    — 上着、皺になると嫌だな —

    スーツを頭上の荷物入れにしまおうとしたとき、隣に座る40代半ばの男性がスーツの上着をコートフックにかけて、早速読書に耽っていた。真似するように、新調したスーツを目の前のフックにかけながら、ふと「メラビアンの法則」の話を思い出した。

    人は多様な解釈ができるメッセージの印象を「見た目55%」「声38%」「言葉7%」で判断しているという。そう思うと、きっとこのフックが今日のプレゼンの印象を押し上げてくれるに違いない、と期待してしまう。

    1月28日(木) AM7:00

    福岡に向けて機体が離陸して20分。恵介の意識も今日のプレゼンに向かっていく。

    携帯を充電するべく目の前のUSBポートにコードをつないだ後、ノートパソコンを開き、今日の資料にもう一度目を通す。

    — おっと。プレゼン中に電源が無くなっては一貫の終わりだ。念には念を、と。

    AC電源にノートパソコンをつなぎ、恵介はプレゼンのシミュレーションを開始した。

    出席するクライアント一人ひとりに目を合わせながら、冷静で自信にあふれ、リラックスして立ち、微笑みながら説明している自分の姿を思い描く。潜在意識に最高のイメージを焼き付ける。


    ほどなくサーブされるドリンクからコーヒーを選択した。朝は食事をとらずにコーヒーだけで済ますのが恵介の流儀だ。

    — へぇ。タリーズなんだ。ラッキー! —

    重量感のあるしっかりとしたボディと好みの薫りが、恵介の頭の中のエンジンをかけていく。一緒に出されたビターチョコレートを一齧り。さらにギアが一段上がるような感覚を覚えた。

    いつもの朝と同じように美味しいコーヒーでコンディションを整えられることに喜びを感じ、段取りの確認に戻る。電話も鳴らない。喋りかけてくる相手もいない、久々の自分だけの空間。次第に集中力が研ぎ澄まされていくのが分かる。

    — 必ず受注する —

    強い決意と、予想外に快適な環境が、恵介の頭を活性化させていく。

    1月28日(木) AM7:45

    一通りの確認を終えた後、ちょうど通りがかったCAに、恵介は聞いてみた。

    「今日初めてスターフライヤー乗ったんですけど、座席が広いし、革張りだし、快適ですね。」

    「一般的には180席のところを150席でご用意しております。ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」

    みなまで言わないが、CAの笑顔は理沙が言ったとおりだ。

    一 あれ?
    普段ならスタッフに話しかけるなどあまりしない自分の行動にふと気付く。シミュレーションで高揚しているのだろうか。どうやら臨戦態勢は確実に整いつつあるようだ。

    革張りのシートに座り直し、着陸までの残りの時間は、機内モニターの電子書籍で新聞をチェックしながら過ごした(※)。アイスブレークのネタを探すためだ。あいにく、その日の新聞にはこれと言って使える材料は見当たらなかったが、恵介の中で話す内容はすでに決まっていた。

    1月28日(木) AM9:45

    恵介と理沙は、予定通り15分前に「天神」にあるクライアントのオフィスに到着した。既に最終の打ち合わせは済ませ、プレゼンに万全の状態で臨む。


    通されたオフィスの会議室には、既に先方の担当部署の本部長1名、マネージャーが2名、現場担当者が3名の計6人が控えていた。
    年間での大型プロジェクトだけに、場の空気も緊張しているのがわかる。

    鍛え抜かれた笑顔で挨拶を済ませた恵介は、小さく息を吐いてプレゼンをスタートさせた。

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