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東京DINKS Vol.5

東京DINKS:昔日の思い出の箱を開けることは許されるのか

※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。クリスマスに偶然、元カレ・寛と再会した愛子は、もう一度寛に会いたい気持ちを抑えていたが、夫・太一の浮気に勘づいて…。

東京DINKS第4話: 東京DINKS:男のケジメ、つけてます?妻にはナイショの、夫の独白

正月休みが終わり、2016年仕事始めの日。まだ仕事の感覚が戻らない愛子は会社のデスクで1点を睨んでいる。目線の先には1枚の名刺があった。

書かれている名前は『石黒寛』。数年前は当たり前のように見ていたこの3文字を、30代も中盤に差し掛かろうとする自分が、再び目にすることに、愛子は戸惑いを隠せない。会社名は6年前と同じ、六本木一丁目に本社を置く広告会社だった。

愛子が28歳、寛が33歳の時に4年続いた交際が終わった。

寛の海外赴任が、別れの最大の理由となった。シンガポール行きが決まった寛からの「一緒に行ってくれないか」というプロポーズ同然の言葉に、愛子は首を縦に振ることができなかった。

ちょうどその頃、愛子は自分の裁量で仕事を進めることができるようになり、仕事の楽しさを解り始めた頃だった。責任ある仕事も任されるようになっていた、そんな矢先に、仕事を辞めて寛について行くことはできなかった。そして寛は、結婚すれば子どもを持つことが自然なことだと思っている男だった。それが2番目の理由になった。

寛とのことはもうとっくの昔に終わった事で、嫌な思い出も全てひっくるめて、若かりし日の良い思い出として綺麗な箱にしまい、リボンまでかけていた。箱にタイトルをつけるとすれば迷わず『初めての、本当の恋愛』とするだろう。

それくらい、愛子にとって寛との思い出は特別で、かけがえのない人生の一部なのだ。


その箱は、もう一生開けることはないはずだった。その箱の存在を思い出すことはあっても蓋を開けることは太一への裏切りであり、何より自分自身が一番許せない行為だと思っていた。それがクリスマスの夜に突然、誰かの手で乱暴にリボンを解かれた。

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東京DINKS

国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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