婚外恋愛 Vol.7

婚外恋愛:国立の夕日を浴びながら、夫と結城を同時に想う。

前回までのあらすじ

34歳、既婚者の”私”は、妻子持ちの結城に好意を寄せている。不意打ちでキスされた1週間後、結城からビリヤードに誘われ、銀座コリドー街のプールバーへ向かう。その後、路地裏のイタリアンで夕食を共にした際、なぜ社内イベントを「サボった」のか聞くと、人付き合いが本当は苦手と聞き、その意外性に驚く。

第6話:コリドー街路地裏のイタリアンへ。無粋な結城に翻弄される

「あなたの子には、いつ会えるのかしらね。」
「お母さん!」

姉が実家のキッチンで洗い物をしながら、声を静かに荒げた。生後8か月の甥っ子を抱っこしながら、私は何も聞こえないフリをしてみせた。

昨年の春、姉は36歳で結婚した。経営コンサルの仕事に没頭し、少しも結婚に気持ちを向けていなかった彼女だったが、ある時過労で倒れて入院した。一週間後に退院すると、大学時代から付き合っていた外科医の彼と結婚すると突然言い出した。

その後の姉は凄かった。宣言通りに結婚すると、すぐに目黒にマンションを、その一年後には甥っ子を「手に入れた」。母は、姉よりも早く結婚した私のほうが、当然先に子供を授かると思っていただろう。その為、なかなか結婚しない長女と、なかなか子供の授からない次女を見て、随分やきもきしていたに違いない。

それだけに、姉には本当に頭が下がる。昔からそうだった。いつも凛として気高く、欲しいものを自分の思うまま手に入れてきた。

「歳末の忙しい時に、ぼやいても仕方のない事に付き合っている暇はないの。」

姉が母をたしなめるように言った。母からの「長女たる者とは」的圧力にも屈することなく、今まで好き勝手やってきた事に後ろめたさがあるのか、それとも、どんくさい私を見かねてか、常に私の味方でいてくれる。若く美しかった時のまま、母は今もなお、負けん気が強い。しかも、歯に衣着せぬ物言いだから、初対面の人がぎょっとする場面も多々見てきた。姉はそんな母に似た性格をしている。

「あなただけの努力じゃ足りなくて、蒼太君の協力も必要なんだからね。そこのところは大丈夫なの?」

姉の言葉を一切無視するように、母が飄々と核心を突く質問をしてきた。1年の終わりを迎える節目に立ち、どうしても聞きたくなったのだろう。そう思ったら、またも聞こえないフリをしようと思ったが、ふふっ、と小さく噴き出してしまった。母なりに心配してくれているのだと思うと、今年も相も変わらず元気に過ごしてくれたことに感謝したくなる。

「なに笑ってるの?」

リビングで母が洗濯物をたたむ手を止めて、怪訝な顔をした。オープンキッチンに立つ姉に視線を向けると、姉も私の顔を見た。目が合った瞬間、今度はふたりでくすくす笑った。大事なことなのに、と言いながら、不機嫌そうに母は再び洗濯物をたたみ始める。私の腕の中で静かに眠る甥っ子。生えきっていないフワフワの柔らかい髪。たまらなくなって、その小さな額にキスの雨を降らせた。

夕方、国立の実家を姉と一緒に出る。玄関先で手を振り見送る母に、また年始に来るね、と別れを告げて、駅に向かって歩き出した。

「ねぇ、今日は車じゃないの?」

甥っ子をベビーカーに乗せて優雅に手押しする姉に、ふと聞いてみる。

「うん。今日は私ひとりだしね。この子を後部座席に乗せてぐずり出したら、運転どころじゃなくなっちゃうでしょ。そう思ったら、怖くなって。それに、レンジローバーなんて時代錯誤のおっきな車、全然慣れないんだもの。」

レンジローバーは、アウトドア派の義兄が姉の反対を押し切って買った車だ。1年以上も経つというのに、その事を未だにぶつくさ言っている。まったく羨ましい性格をしている。

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