絶世の美女ではない。だけどなぜかあの子には男が途切れない。あの子に恋した男は自殺未遂を起こすとか、男に貢がれた総額は"億"を超えるとか、まことしやかに囁かれる"その女"の噂。たいして可愛くないのに。女ウケは悪いのに。それでも、"その女"から目が離せない。あなたの周りにもきっといる、噂の絶えない女・・・
その名は「サエコ」。彼女は、本当に悪女だろうか?
サエコ(28歳) 大分県出身。顔、中の上。
サエコ(28歳) 大分県出身。顔、中の上。性格・・・不明。サエコについて語るとき、女の口から、嫉妬と自己肯定が入り混じるねじれた感情が露呈していく・・・。果たして、”サエコ”は悪女なのか?誰が悪女かわからない、視点を変えれば全員悪女な十人十色の女たちの主張が始まる。
サエコが勤める会社の同期であるさとみは、サエコについてこう語る。
サエコ?田舎の女の成り上がり。
サエコと初めて出会ったのは、忘れもしない4月1日の入社式の夜でした。
サエコについて語る前に、自己紹介をさせてください。私は、サエコと会社の同期のさとみと申します。青山学院中等部からそのまま大学へ進学し、汐留にあるこの会社に入社しました。
突然ですが、「スクールカースト」って言葉、ご存知ですか?
教室内には、見えない序列があって、その格差をカースト制度のような身分制度になぞらえた表現です。
中高時代のカーストは歴然で、否応なく「上」「中」「下」の序列のラベルを付与されます。容姿が優れていたり、運動部のレギュラーだったり、ノリが良い子や、恋愛関係が派手な、華のある子たちで構成される「上」グループ、平々凡々な一般大衆のマジョリティ「中」グループ、そして、地味で存在感が限りなく透明に近い「下」グループ。
私は、もちろん「上」グループのペルソナのような女の子でした。菜々緒さんみたいな抜群の美貌もスタイルもないけれど、石原さとみさんのような、親近感のある可愛さで、クラスの人気者だったと思います。AEONに通っていたこともあって、英語の発音も抜群。教育実習にきたセンセイもたじたじでした(笑)
あ、誤解しないでいただきたいのですが、私は、「下」グループの子でも、ちゃんと分別をわきまえている子とは、仲良くしていました。例えるなら、黒毛和牛とビーフジャーキーの違い、九谷焼と100円均一のお皿の違いのように、明確なスクールカーストの格の違い。それを自覚した上で、私と近づきたい、仲良くなりたいという子には、喜んで笑いかけました。
その微笑みは、彼女からしたら女神のように神々しかったことでしょう。
中高一貫校ならではの固定化されたカーストの恩恵を享受して、6年間メインストリーム街道まっしぐらの私でしたが、大学入ったあたりから様相が変わってきました。ずっと穏やかな私たちの聖域に、外部入学の子たちが押し寄せてきたんです。血統証付きの私たちにとって、ギャンギャンうるさい雑種の乱入はあまり気持ちのよいものではありませんでした。
排他的?いえいえ、ずっと清流にいる私たち。濁流が混じってきたら、ろ過したいって思うのは当然でしょう?けれど、私も大人です。「清濁併せ呑むことも大人になることかしら」なんて思っていたんですよ。
あの女に会うまでは。
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