婚外恋愛 Vol.5

婚外恋愛第5話:コリドー街のプールバーにて、板チョコのように全身が溶ける

前回までのあらすじ

34歳、既婚者の“私”は、同じ会社に勤める妻子持ちの結城に好意を寄せている。1週間前に不意打ちでキスされるものの、未だ結城の本当の気持ちがわからない。今夜行われる社内イベントで会えるかもしれないと思い、迷いつつもメールをしてみると、欠席してビリヤードをするから良ければ来ないかと誘われ、銀座へ向かう。

第4話:8分19秒

結城さんがいつの間にか心の深層に存在していた。それは今や確かな事実だ。例えると、それは深い森の奥に潜む小さな泉のようなものかもしれない。誰にも気付かれることなく、沸々と静かに湧き出てきた小さな泉。一週間前、そこに一粒の水滴がぽつんと落ちてきて、ゆっくり音もなく徐々に波紋が広がっていった。そして、その波紋はどこからともなく木々の隙間から吹き抜ける風によってさざ波へと変わり、今こうして初めて音として鳴り響いているようだ。

結城さんを潜在的に意識し始めたのは、いつ頃からなのだろう。この1週間ずっと考えていた。

私が丸の内本社の人事部へ異動してきたのは、2年前。由香が私より先に異動してきていて、支店の営業担当だった私に、甲斐甲斐しく本社勤務のいろはを教えてくれた。そんな由香の所属部署が「結城本部長」配下の部署だった。

「結城さんって、すごくいい上司なんだよー。誰に対しても謙虚なんだけど、ちゃんと求心力もあって。人を惹き付ける何かを持っているのかなぁ・・・」

私が本社に着任したばかりの頃、『パニーノ ジュスト』でランチをしながら、由香がそんなような事を話していた。パニーニを頬張りながら、ふーん、いいね、と曖昧に相槌を打つ。私の内心はむしろ自部署の事を気にしているのだ。しかし、そんな事は微塵も気にせず由香が続ける。

「しかも、いい男って感じなの!本部長なんだけど40歳そこそこで若いの。親会社からの出向者だからってのはあるけどねー。」

熱っぽく由香が話してくれていたのは、結城さんも私と同じタイミングで銀行から出向してきたばかりだったからだ。それが一番最初に私が結城さんの存在を知るきっかけだった。

その後、新卒の大量採用計画が固まり、本部長各位を面接官としてアサインする事が決まると、結城さんとの接点が少しずつ出てきた。実際に会って話してみると、確かに由香や周囲が言う通り、好感の持てる人柄だった。なんというか、至ってそつが無いのである。

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