郷土料理を出すのは昔はタブーだった!進化する近年の「民宿」事情をレポート

その宿に泊まるためだけでも旅立ちたいと思わせる民宿が増えてきた!

話を戻す。国内の民宿である。そのような訳で、わざわざ訪ねるに値する民宿が、増えてきたように思われる。その宿に泊まるためだけでも旅立ちたいと思わせる民宿。

あちらこちらにあるのだけれど、特に興味深く思われるのが〝農家民宿〞の類。知る限りでは信州、長野県と山形県の庄内地方が面白い。庄内など、焼畑を残し、この土地にしかないローカルな野菜を残すことに熱心であったりするように、「農」に対する意識が非常に高い。そのような背景から、『アル・ケッチァーノ』のようなレストランも出てくるのだけど、ま、今回は主題と外れるのでこれはまたの機会に。

ともあれ、農家民宿を1軒あげるとすると、鶴岡の郊外にある『知憩軒』。

まさに庄内の農家。初めて訪れても、帰ってきた気分にさせられる設え。雰囲気。主の長南光(ちょうなんみつ)さんの説明を受け、いただく料理は……。

ズイキの茎の部分の甘酢や百合根の小品。「エゴ」という海藻の煮こごりにあさつきの酢味噌。ずいきの芋の方としいたけの煮付けやらお手製の胡麻豆腐。そんな土地の滋味をつまみながら、地酒を一献。戻した干鱈の煮付けもさらに良い酒の肴。

味噌を入れて山形青菜(せいさい)で包んだお握りを炭火で焼きながら、農家の暮らし、庄内の食を長南さんが話してくれるのも、しんしんと降り積もる雪も良い酒の肴。

どうです?どうせ、地方に旅するなら、ビジネスホテルに泊まったりするよりも、こんなところにと思いません?

眼前の日本海で取れた能登の郷土食材をイタリアンで味わう『ふらっと』(石川県)

能登の魚醤「いしり」を使うなど〝ここならでは〞の味が『ふらっと』最大の魅力だ

地方の味の進化形!これからも民宿は進化し続ける

そうそう、先ほどお話した能登の日本一と呼ばれた民宿『さんなみ』は、今は『ふらっと』という宿になった。
これは、『さんなみ』の娘とそのオーストラリア人の夫、ベン・フラットが営むイタリアンの民宿。

とはいえ、いしり風味のポタージュやら、コンカイワシをアンチョビ代わりという能登の味。朝は『さんなみ』のような朝ご飯。魚介の味噌汁に炙ったコンカイワシや、やはり自家製のいしり漬けの干物など焼いて。

地方の味の進化形。物語は続いている。

■プロフィール
森枝卓士 フォトジャーナリストとして、東南アジアを中心に世界各地を取材。「生活のレベルからの知識なくして、政治、経済といったレベルでの理解もありえない」という認識から、食文化にまつわる著作も多い。『図説 世界100の市場を歩く』(河出書房新社)ほか多数。

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