東京☆ビギナーズ Vol.1

東京☆ビギナーズ:28歳大阪からの上京。「ノールックいいね!」に愛はあるのか

― ついに来てしまった。もう、やるしかない…。―

スーツケース片手にネイビーのスーツを着て、東京駅八重洲口にたたずんでいたのは、シンゴ(28歳)。 新宿を本社におく、大手インターネット広告代理店に勤める営業マンだ。

インターネット広告代理店といえば、旬で派手なイメージがあり聞こえは良いが、彼の場合は全く違った。

関西の国立大学を卒業後、生まれも育ちも関西ということもあり、初任配属は大阪支社だったのだ。

大阪というのは、たとえインターネット業界のように業態は新しくとも、古き良き商人文化が根付いた町だ。流行りの横文字が並んだロジカルな企画書よりも、人柄や飲みの付き合いが重視される。

要するに、非常に泥臭いのだ。

幸いにも、爽やかな風貌ながら親しみやすい砕けた性格と、お酒の席を苦としない体質から、地方のオーナー系企業の社長にはとてもかわいがられた。東京ほど仕事の派手さはないが、着実に売り上げを伸ばしていき、穏やかで順風満帆なビジネスマンライフを送ってきた。

だが、そんな中、彼に転機が訪れた。



入社後6年がったある日の朝。

シンゴはいつものように、クライアントとの深夜まで続いた飲み会明けで、眠い目を擦りながら出社した。

「ちょっとええか。」

まだ始業のベルもなっていないタイミングで、突然上司からデスクで声をかけられた。

― なんの呼び出しだろう…。今月はまだそこまで経費使いすぎてないし、売上も順調だし…。
はっ!ついに俺もマネージャーに昇進!?やばいな、ますますモテてしまうわ…。 ―

まだ昨晩のアルコールが残っているからなのか、脳内にお花畑が咲いたまま、会議室へと入る。
着席してそうそう、上司は開口一番で彼にこう告げた。

「来月から東京に行って欲しい。」

― …よし、ついに来月からマネージャーに…って、え、え!? ―

「せやから、転勤や。どうしても本社が人が足りないって言うてな…。当然、優秀な人材として求められているわけだから、悪くない話やで。ぜひ向こうでも頑張って欲しい。」

― うそやん …い、いきなりすぎるってー! ―

突然の東京転勤を告げられ、焦るシンゴ。

正直なところ、彼にも本社に憧れていた時期もあったし、悪い話ではなかった。

大阪支社は組織の規模が小さいことから、若手にもそれなりに裁量権がある。仕事熱心な彼にとっては非常に充実していたものの、お付き合いするクライアントは中小企業が中心だ。

一方本社で活躍する同期は、大手企業のクライアントを中心に、自分の何十倍の規模の仕事を回していた。そのことへの嫉妬や闘争心にも近い感情は確かに持ち合わせていたのだが、かれこれ28年間、関西の地を出ずに生きてきた彼にとって、もはや関西に骨を埋めようとしていたタイミングでの転勤は、さすがに困惑せざるをえなかった。

最近読んだ東京カレンダーの連載「東京人生ゲーム」の主人公、拓哉の持論によると、28歳は男の下積み時代が開け、ルネサンスが到来するんだとか。

自分自身も28歳。まさにそのような状況であったが、あくまでそれは大阪での話。東京への転勤となると話が変わってくる。完全にゼロからではないものの、これまで築いてきた信頼や実績、人的ネットワークの多くを、再度作り直していく必要があることが、どれだけ大変かは想像に足るものだった。

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