汐留タラレバ娘 Vol.5

汐留タラレバ娘:34歳独身女の発言は、全て「結婚」に強制タグ付けされる?!

前回までのあらすじ

独身34歳3人組、アキコ、貴理子、なお美。化粧品会社で、経理課長代理として働く島田アキコは、仕事もそこそこ順風満帆だが彼氏はいない。そして3人揃って左手薬指の予定もない。そんなある日、カラオケで盛り上がった同じ会社の営業部のエリートで、「最後の独身男」として女性たちから絶大な人気の玉置孝太郎からデートに誘われる。怯えながら臨んだデートで、玉置のエスコートに、久しぶりの「女の子」扱いをされたアキコは舞い上がる。帰り道「送っていくよ」と言われたアキコだが・・・

前回:34歳独身女、久しぶりの「女の子」扱いに、脳内ファンファーレが鳴り響く!

「島田さん、家どこ?送っていくよ。」

ビールに、ワインでまどろんだアキコの頭は、冷水を浴びせられたかのように、叩き起こされた。アキコの脳内には3つの選択肢がまるでクイズ番組のように並んでいる。

ーQ:玉置の真意はなんでしょう?ー

A:他意は微塵もない。単にレディファーストのジェントルマン。

B:ウフフな展開を狙っている送り狼。

C:暗黙の了解。君も大人だろう・・・?


会社でも最後の独身と騒がれている玉置のこと。大人の渋い魅力にうっとりする若い女の子たちが腐るほどいるのだ。敢えて、34歳のアキコを狙うほど、女に困っていないはずだ。

—逆に手負いになりそうな34歳になんて、手出さないよね・・・—

アキコは、B、Cの選択肢を出した自分の客観性の欠如を恥じた。女が歳をとったら、テスト提出前に、時間の許す限り回答を見直すように、常に自意識と客観性の往復の確認作業を怠ってはいけないと常々考えているのに・・・

外界での1日が、その部屋の中では1年に相当するドラゴンボールの精神と時の部屋のように、女が思っている以上に、妙齢の女たちの「1歳」と世間のズレは大きいのだ。自分の価値は、女たちが想像している以上に低く、34歳の女の扱いにくさといったら、想像の遥か上をいく。

モグラ叩きのハンマーで叩くようにBとCの選択肢を潰すと、おのずとAが浮かび上がる。

「池尻大橋です。」

素直な好意を差し出してくれる玉置の紳士さに改めて感謝の意を表した。





帰りのタクシーの中。玉置の左手とアキコの右手の距離は、およそ30cm。触れようと思えば、触れられるのに、玉置の頭の中は、地球の裏側のように、何を考えてるか捉えられない。

—・・・結局、玉置さんって何で私のこと誘ったんだろう・・・—

なお美と貴理子からのアドバイスにより「小指の爪先ほどの期待」で臨んだアキコだったが、結局、玉置が誘った理由について知ることはできなかった。大きくもならず、消えもしない期待は、小指の爪先ほどの大きさのまま、心の中で、ひっそりと、でも存在感を主張するかのように、こちらに全力で手を振っている。

玉置の体からは、アルコールの匂いと体臭に混じって、うっすらと甘い香水の香りが漂っている。気付かれないように、鼻腔からめえいっぱい玉置の香水を吸い込む。うっとりするほどのフェロモンに、アキコは、惨めな気持ちになる。

—・・・・きっと彼女もいるんだろうな。しかも何人も。—

玉置のFacebookでの女たちの綺麗な笑顔がフラッシュバックする。たくさんの女たちが、玉置と飲みたがり、そして、実際に、飲みに行っているのだ。アキコが特別なわけではない。普通に考えればわかることを、普通に判断できないのは、玉置への想いが普通の感情をはみ出してしまっているからだろう。

—恋のスタートは、いつも、こんなに切なかっただろうか・・・—


タクシーは高樹町交差点を通り過ぎ、246を渋谷方面に下っていく。トンネルに差し掛かると、ここからアキコの住む池尻大橋まであっという間だ。右側に玉置の気配を痺れるくらいびんびんに感じながら、無関心を装い窓の外の流れる景色を眺めるものの、トンネル内の等間隔のオレンジ色の光が車内を照らすたびに、溢れ出す恋心が今にも見つかりそうでビクビクする。

ふと、静かな車内に携帯の着信が響いた。

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