やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.16

やまとなでしこ2015 最終話 5年の歳月を経て・・・桜子の決断。

前回までのあらすじ

27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘からプレ・プロポーズを受け、隆弘の慕っている夫妻に婚約者同然に紹介されるも、大学時代の元彼・司とのことを思い出して涙ぐんでしまう。「極上の結婚」に迷いが生じた桜子。最終話。桜子の決断は・・・

前回:決断前夜・・・あの美しい愛をもう一度・・・

ドラマのようなことなんて信じない。
あのドラマで最後、私と同じ名前の主人公は、数学者としての夢を追って魚屋さんと結婚した。だけど、フェンディのバッグひとつ買うにも躊躇する生活は、本当に幸せだったの?

おとぎ話のハッピーエンドの続きは誰も知らない。シンデレラは、王子さまと結婚して、何不自由なく暮らしたけど、もしかしたら、家柄の違いと教養のなさはシンデレラを苦しめたかもしれない。


桜子は、軽井沢で高城夫妻と食事をした帰り道、誕生日の約束の時間をずらして欲しいと伝えた。隆弘は、少しの間をおいて言った。

「わかった。・・・・・深い意味はないんだよね?」

桜子は何も答えずに微笑んだ。


9月27日、桜子28歳の誕生日当日。


勝負日の前は決まって、TPPOに合う一張羅を揃えてきた桜子だが、この日はダイアン フォン ファステンバーグのワンピースもマノロブラニクの靴も買わなかった。大好きなカメレオンの時計も今日は必要ない。華美な装飾も、高いヒールも司の前では意味のないことのように思えたのだ。

司から指定された店は、二人が交際に終止符を打った『カーエム』だった。5年の時を経て、恵比寿から、日本のレストランの頂点・銀座にステージを移していた。

店に到着すると、司は既にテーブルに座っていた。

5年ぶりに会った司は・・・全く変わっていなかった。ダボダボのTシャツは、ラルフローレンのオックスフォードのビッグシャツに、ダボダボのデニムは、細身のチノパンになっていたけど、大学時代キャンパスで異彩を放っていた司は、やっぱり、フロアでもそこだけ空気が違って浮き出て見えた。

「少し痩せたんじゃないの?ちゃんと飯、食ってる?」

久しぶりの挨拶もなく、桜子の姿を認めるや、大学の大教室で初めて言葉を交わしたときのように、唐突に、時間と距離を乗り越えて、懐に飛び込んできた。

「5年ぶりの再会の挨拶が、飯食ってる?なんて失礼ね!」

そう言って笑い席に着くと、来るまでの緊張は夜立ち込めた霧が朝の光にさらされた途端ぱっと晴れるようにあっと言う間に消えていった。桜子は自分だけ一人空回りをしていたのかと、心の中で苦笑いしたが、相変わらずの司の無垢さがあることに、どうしようもないほどに安堵した。


5年の歳月は急速に埋まる。

絵を描いて暮らしたい、そう言っていた司は、絵を描くことは諦めていなかった。ただし、それは紙ではなく、インターネットの世界に移り、現在インターネット企業で契約社員のデザイナーとして働いているようだった。

「あれからしばらくは、のんびりと生活してたんだけど、サンディエゴのときの友達が今の会社に誘ってくれたんだ。暇だし手伝うつもりでバイトしてたら、そのまま居座っちゃった感じ。」

そう言って司は笑った。本来の願いではなかったかもしれないが、世間と私欲の折り合いをつけて、司は生きていた。
会社名とか収入とか正社員とか契約社員とか、そんなこと気にするという発想すら無いように見える司は、逼迫した雰囲気や、厚ぼったい承認欲求が皆無で、水のように流れて抗うことがない。自分がその日その時そうしたいと思ったように動く司は、スケッチブックを抱えていたあの頃のままで、そこが好きだったなと桜子は眩しそうに司を見た。

「司らしいね。どこの会社で働いているの?」

さりげなく聞いた桜子は、次の瞬間、司が告げた言葉に凍りつく。

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