やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.15

やまとなでしこ2015 決断前夜 ・・・あの美しい愛をもう一度・・・

前回までのあらすじ

27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘からプレ・プロポーズを受けた桜子。大学時代、心のそこから愛した司からのメッセージで、「極上の結婚」に迷いが生じる。間もなく決断のとき・・・

前回:前回:迫る決断の日・・・桜子が唯一愛した男とは

ツイードのグレーワンピースに、スエードのパンプス、マスタード色のエナメルのバッグ。

こっくりとした栗に、脂の乗った鮭、秋刀魚に、松茸・・・

実りの多い秋は愉しい。

夏の勢力がもう一度ぶり返すと思いきや気温は一気に急降下。一方、一触即発ヒートアップの国会で安保法案で喧々諤々。なんてメモリアルな夏の終焉だろう。
台風一過で突き抜けた青空にトンボの大群のコントラストがくっきり浮かぶ。


「桜子・・・桜子、聞いてる?」

はっとして顔を上げる。

土曜日のうららかな午後。アウディのカブリオレの助手席。
隣には、短い夏を満喫した者の勲章のように紫外線をこれでもかと吸収し黒々と輝く隆弘が困ったように笑っている。シルバーウィーク初日、ふたりは、隆弘の懇意にしている経営者ご夫婦と軽井沢で落ち合うことになっていた。

「指輪って7号でいいんだよね?あと、形なんだけど、ダイヤがちりばめられたパヴェタイプと、大きな石が一粒のソリティア、どっちがいい?」

この前カタログを見てしまって以降、隆弘は開けっぴろげに桜子の好みを聞いてくるようになった。まばゆいばかりの宝石の話なのに、隆弘の言葉が右から左にすり抜けていくのはどうしたことだろう。

—しっかりしなさい、桜子・・・美化された思い出に惑わされるなんてバカな女のすることよ。—

司といた日々は楽しかった。だけど、あの時に感じた窮屈さ、欲しいものを諦めないといけない切なさは、桜子の心まで貧しくさせるようだった。知人の豊かな生活を見るたびに、暗雲が立ち込めて心の中には長い影がさす。否定することで、保たれるギリギリの自尊心は、相対的でグラグラなやじろべえのようで、乱降下する精神状況に侵され、自分の性格がどんどん意地悪くなっていくのをまざまざと感じていた。

司との辛かった最後は、桜子に霞を食べては暮らせないという大事なことを教えてくれたではないか。

この現代で、桜子のような強欲な女が、その欲望を現実に変換する膨大なカロリーは、優しさなどといった軟弱なパワーでは賄えない。こってりとした油まみれのような金の力が必要なのだ。

—いずれにしても、今さら、司となんて、無理に決まってる・・・—

桜子は、まとわりつく幻影を断ち切るように、カブリオレのシートに沈み込んだ。

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