2015.09.12
編集・鮓谷の東京“コスパ”カレンダー Vol.19実はわたくし、フリー(ライ)ターをしていたときに、築地の仲買人のみなさんと2年ほど毎日寝食を共にしたことがあります。
朝10時ごろに仕事が終わった仲買人たちは、その日仕入れた一番旨い鮪の切れ端と、場内で買ったおかず(場内で仕入れた鮮魚、“小物”。鮪以外の魚は“小物”と呼ばれます)を持ち寄って、下町のナポレオンを飲みます。下町のナポレオンは『いいちこ』ですが、下町のドンペリは『二階堂』だそうです。築地で3本の指に入る鮪屋さんなどが、集っていてそれはそれは賑やかな集団です。
野良人間のわたしにとってはランチなので、そこから合流です。
夕方まで飲んで調子が良ければそのまま飲みに行き、4軒ほどハシゴしたあとに、スナックへ。その時点で死屍累々ですが、みんな気にせず。俺は屍を越えていく、安心しろ、骨は拾ってやる、そんな雰囲気です。
年末には鮪を売る仲間の傍らで、いつものお礼に、朝から中落ちを売るため朝から場内で働きました(どんぶり2杯のナマコを食べさせてもらう、という交換条件で)。もちろんその後はいつもの場所で、大宴会です。
カオスにして、サンクチュアリ。粗にして野だが卑ではない。
その仲買人が集う本拠地が、ここ『本種』です。包丁を握って45年の大将が、くわえ煙草の仲買人と丁々発止のやりとりをしながら日々、“メシ”を作っています。
寿司屋というと照れます。「うちはメシ屋だから」といって。
好きすぎて、本誌でも紹介したのがこちらの記事、「むやみに行列に並んでいませんか?真に並ぶ価値のある厳選ランチ4店」(https://tokyo-calendar.jp/article/4175)。
そもそも仲買人が集っている、ということは、大将のやることなすこと、手元が全て見られているわけです。にぎりや刺身が運ばれるたびに「もっといい鮪使えよ〜」「うるせえよ。終わりにするぞ、さっさと帰れ」なんてやり取りは、しょっちゅう。
そこで情の厚い仲買人たちは「しょうがねぇなぁ〜」といいながら、場内にもどって冷蔵庫から鮪を出してきて「ほらこれ使えよ」と、大将に渡します。大将も「おう、すまねえな」といってそれをお客さんに出します。
そんな光景にまたほっこりします。
今回は久しぶりに夜のコースを予約して訪問しました。魚食女子互助会です。
たまに鮪の骨が、ドドーーーーンとでて、みんなで中落ちをこそげとりながら食べる、というのも登場します。最近よくありますが、ここが元祖だと思っています。鮪一匹の骨が出てくる、って尋常じゃない。そのときは、このテーブルが鮪で占領されます。
料理を出し終わった女将も乱入です。こちらの大将と女将、大阪万博で出会ったそう。東京でOLをし婚約者もいた女将は、大阪万博に遊びにいき、梅田の交差点で大将と運命的な出会いを果たし、その日その瞬間から今日まで45年ずっと一緒。
「婚約者が可哀想!」という我々に、「惚れて振られて騙し騙され、出会いってそんなもんだよ」とは、女将談。
ですよね。
そうそう、うまい、とタイトルにあるのは、“うまい話があるんだけどよぉ”のテンションの【うまい】、と捉えて頂ければ。やはり築地には行列3時間の『寿司大』もありますし、美味い店はいっぱいあるわけです。
しかし、【うまい】店はここしかないと、わたしは断言できるのです。
是非、築地に行ったら立ち寄ってみてください。橋田壽賀子並みのドラマが繰り広げられていますから。
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事で紹介したお店
本種
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