やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.10

やまとなでしこ2015 大和撫子の純潔はどこへ行った?

前回までのあらすじ


27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘を手堅く押さえつつ、更なる高みを目指し参加した食事会で、メディアに引っ張りだこの若き経営者・国分与一とデートの約束をするなど最高値で売れると信じている27歳を最大限利用して結婚相手探しに奔走する。そんな折、弁護士の長田との初デートで、想定外の事態が発生。ホテルに部屋をとってあるという長田のペースに飲みこまれそうになる・・・

まさかの形勢逆転・・・百戦錬磨の桜子危うし。

色事は、「もしかしていけるかも」という淡い期待を煮詰めて煮詰めてなかなか叶わないのがよろし。清少納言が恋愛事について語れば、こんなことを書くかもしれない。

桜子はぼんやりとした頭で考える。
恋愛において、この「もしかしていけるかも」という感覚は殊更に重要だ。

ソーシャルゲームのロジックを見れば一目瞭然。射幸心を煽って、コンプリートできるかも、と大いに期待させながらも、最後の一枚がびっくりするほど出てこない。ここに金を生み出す錬金術が隠されている。時間と金をつぎ込んだ男たちは、投資分を回収しようと躍起になる。その必死さを紐解けば、それは、単なる執着なのだが、執着は、時として恋と非常に似た形状をしていて、男たちはそれを恋愛と錯覚するのだ。

桜子は常に、そんなふうに男性の下心を逆手にとってきた。

しかし、今夜のように「いけるかも」の下心が行動次第で、「いけてしまう」環境が整っている場合の危険性について、桜子の想像力は欠如していたとしか言いようがない。


—こんなはずじゃなかったのに・・—



店員を呼び部屋番号を伝えて会計を済ませる長田。
香織と美穂の昼間の「バチがあたる」という言葉が呪文のように頭の中でリフレインしている。

「さ。早く。袖がシミになってしまう。」

自分の蒔いた種がこのような形で桜子を縛ることになるとは。
煽ってしまった男性の火消しをどうすべきか、頭の中の理性を総動員しながら促されるままに席を立った。

桜子は思う。最近、女性の最後の砦に対する意識が緩過ぎる。処女じゃあるまいし勿体ぶるほどのものかと疑問を呈する人もいれば、相性が合わなかったときほど悪いものはないから早々に試すべきという人もいる。これが女の口から語られることに桜子は驚愕を覚えながらも、男性と同様に性を謳歌できる女性、というのが、昨今のトレンドなのかもしれない。


恋愛工学とやらが発達し定着してきた2015年。男たちは一線を越えるための手練手管を四方八方から仕掛けてくるし、身売りバーゲンセールのようなトレンドで、女のガードと倫理観も崩壊寸前だ。

大和撫子の純潔はどこへ行ったのだろう。


桜子は、ピタリと歩みを止める。長田は訝しげに顔を覗き込んだ。

「どうしたの桜子ちゃん?早く行こうよ」

桜子は、長田に向かって極上の微笑みを投げかける。

「着替え上にあるなら安心です。着替えてきてください。私、ここのバーで待ってますね。」

「え・・・????」

長田の唖然とする顔を尻目に桜子は踵を返す。もちろんバーに向かうつもりはない。

「桜子ちゃん!」呼びかける長田に、振り返りにっこりと手を振った。

順番待ちして時間とお金をかけてやっと手に入れたバーキンが、一生モノのバッグになるように、桜子はバーキンのように一生かけて大事にされる女でありたいと願っている。そのためには、桜子は、順当な手順を踏んで丁寧に欲されたいのだ。こんなコンビニエンスストアみたいな流れは全くもって願い下げである。

長田ひとりが撤退しようと桜子にとっては痛くもかゆくもない。他に複数案件を走らせるメリットは、失う恐怖に駆られて、不平等交渉を進めなくても良いことだ。

見切りが早く引き際が潔いというのは、大和撫子を自負する桜子の恋愛における圧倒的な強みだ。


桜子は、エレベーターで1階に降りると、真っ赤なオブジェを見上げ一瞬足を止めた。静寂のエントランスの真ん中に鎮座するこのオブジェは、ホテルのポリシー「サイレントシンフォニー」を体現しており、訪れる人の心を浄化したいとの思いが込められていると聞いたことがある。

桜子は、頭の中で「delete」キーを軽やかに叩き長田の残像をさっぱりと消すと、汐留の夜の街へと消えていった。


東カレアプリダウンロードはこちら >

【やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ