「この近くにミクソロジーカクテルを出すBARがあるんだ。今の季節だとあまおうが美味しいんじゃないかな。寄ってかない?」
最初のデートでは二軒目の誘いをあっさり断られて結衣に帰られた。しかし、僕はいつの日かのために入念に下調べをしており、BARに詳しい友人の村上にお勧めの店を聞いた。
「あの店の個室はいい。口説くときにはもってこいだ」
村上の教えに従って選んだ『Bar Rage』は南青山七丁目のグルメストリートの一角のビルの2Fにある。看板も出ておらず、ドアを開けると長いカウンターが出迎える。その奥に個室が3部屋あり、僕らが入った部屋はロッジのような温かみのある部屋で、ローテーブルを短めのソファーと長めのソファーでL字型に囲んでいた。使ったことはないがテラス席もあり、夏は気持ちよいだろう。
ミクソロジーとは「mix(混ぜる)」と「~ology(科学)」を組み合わせた造語。リキュールやフレーバーシロップを一切使用せず、旬な果物やハーブなどとスピリッツを組み合わせる、素材の良さを引き出すカクテルをミクソロジーカクテルと呼ぶ。
果物を敬遠する女性はまずいない。ただ単にBARに誘うより興味を示すやすいはずだ。西麻布のBARは他にも複数下調べしたが、二軒目の誘いに応じる成功確率を少しでも上げるために、ミクソロジーカクテルを出す『Bar Rage』を切り札として選択した。
◆
結衣は笑顔で頷き、二軒目についてきてくれた。なんとか、第一関門をクリアした。
店内に入り、バーテンダーに個室が空いているかを確認する。あのロッジの個室が空いている。迷わずそこにした。
「この照明、ドンペリのボトルを組み合わせてるのかな?」
結衣は一軒目から引き続き機嫌が良さそうだ。バーテンダーが来て注文を取る。3月という季節柄、おすすめされたの果物はやはりあまおうだった。白いスカートを穿くような清楚な外見の結衣にお似合いだ。
「あまおう、大好きなの」
10分後、綺麗な色のミクソロジーカクテルがやってきた。乾杯し、ものすごく美味しそうな表情をして、結衣はカクテルを飲む。
「そっちの、キウイのもすごいおいしそう!」
無邪気に僕のカクテルまで味見する。ドタキャンしたり、大幅に遅刻したりもするけど、目の前で喜ぶ彼女を見ると満たされた気持ちになりかけた。
結衣がトイレに席を立ち、ドアを開けたその時だった。
「・・・結衣ちゃん?」
男の声が聞こえた。
そして僕は、石になった。
■レストランで恋のシーソーゲーム(WOMAN)第3話:セカンドデート延長戦 2軒目で訪れた春の嵐?
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