身も心も酔わせる、二軒目の切り札 Vol.3

二軒目の『STAR BAR GINZA』の魔のサイドカーで引き出す本音

バレンタインデーに憧れの会社の先輩であるマリ(33)にチロルチョコをもらい、お返しにとホワイトデーに『鮨たかはし』でご馳走したが、マリに全くその気はないようだった。このまま帰っては男が廃る。鮨屋を出て僕は延長戦を申し込んだ。

「この後、もう一軒どうですか?」

「うーん、少しならいいけど」

ここは銀座一丁目だ。タクシーで遠くに行くよりは、この辺のBARに入るのがよかろう。銀座は普段さほど来るわけではないが、一つだけ知っているBARがあった。オーセンティックBARの部類には入るが、堅苦しくないカジュアルなBARだ。

「ここから歩いて5分くらいのところにあるんですが、シックなBARです」

「そうなんだ。任せるよ」

そうして僕らは『STAR BAR GINZA』に辿りついた。

「銀座以外にはなさそうな大人なBAR。あなたも、大人になったのね」

「一軒目でも大人になったねって笑。からかいすぎですよ」

「ごめんごめん、新卒のときの印象が強いから。ほんと、やんちゃな子だったね」

たしかに僕は新卒の頃よく問題を起こしていた。そんな僕を見かねて拾ってくれたのがマリだった。仕事がよくできるだけではなく、マネジメントが上手だった彼女。1年目で大した仕事もできずに口だけは偉そうな僕を見捨てることなく、目をかけ続けてくれた。

「ここのマスターはスコットランドのアイラ島の親善大使らしくて。ウィスキーも豊富にあるんです」

「へえ。そうなんだ。ここのお勧めは何かな?」

「サイドカーが有名ですね」

「サイドカー?じゃあそれで!」

サイドカーの名前の由来は、戦時中に側車付き二輪車(サイドカー)が事故に遭うと運転手よりも同乗者(助手席に座るのは女性が多い)の方が重い被害を受けやすいという説があり、「女殺し」とも言われる。ブランデーベースだが、そのカクテルの飲み心地の良さについ飲み過ぎてしまい、酔いつぶれてしまう(女殺し)ことと掛け合わせた洒落とも言われている。

マリは比較的酒が強い。だが、一軒目で多少飲んだ後にサイドカーを飲むとどうなるか。試したかった。

「綺麗なカクテル。飲みましょう。乾杯!」

そんなに強い酒とは露知らず、マリは嗜む。僕は保険をかけてサイドカーではなく、ウィスキーの水割りを飲んだ。

15分すると、嘘のようにマリの様子が変わってきた。

「そもそもあんたなんてさ、あれだけ問題児だったのに、立派になったよね。今や会社の中核を担うエース。当時から生意気だけどただ者じゃないと思ったの。私が見込んだだけある」

しみじみとマリが語り出した。

新卒時代の僕は何の実績もない問題児だった。当時の僕にとってマリは憧れの先輩。憧れすぎて恋愛感情を持つことすら憚られた。しかし、30歳になった今となっては、社内の新卒や若手に恋愛感情を抱くのも理解できる。その時点での仕事の出来は実は関係ない。伸びしろという輝かしい未来を持つ後輩が眩しく見えるのだ。

「それで・・・男としてはどう思ってますか?」

勇気を出して聞いてみたが、マリの瞼は落ちていた。サイドカーにてノックアウト。だが出会ってもう8年になるが、一度も聞いたことがない本音を、少しだけ聞けた気がした。


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