A2:元カノと比べられ、“審査”されている気分になった。
2週間後、代官山にある健斗の行きつけのビストロで二度目のデートをした。
前回のこともあり、今日は私からも少しずつ話してみようと決めていた。ワインが進むにつれて会話も弾み、「やっぱり前回はたまたまだったのかも?」と思い始めていた。
しかし、そんな淡い期待は、ある一言で崩れることになる。
「真凛ちゃんって、自炊とかするの?」
「はい。平日は遅いことも多いので、週末にまとめて作り置きをしています」
「そうなんだ!偉いね。前の彼女なんて、全然料理しなかったから。家に帰っても何もないし、たまに作ったと思ったら、不味いし(笑)。やっぱり付き合うなら、料理上手な女性がいいよね」
二度目のデートで元カノの話をする必要は、何もない。
「そうなんですか?」
「元カノは仕事もそこまで忙しくないのに、家のことは全然でさ。それに比べたら、真凛ちゃんは仕事も家のこともちゃんとしていて、本当にすごいよ」
そして、元カノや元奥さんなどのことを悪く言う男性は、信用できない。
もし仮にこの後私と付き合って別れたら、こういう男性は、絶対に自分を悪者にせず、私のことを貶しまくるだろう。
「そんな、普通ですよ」
健斗は元カノと比較して、褒めているつもりなのだろう。でも、私はちっとも嬉しくなかった。
“元カノより上”。それは裏を返せば、私も同じ物差しで測られているということ。
料理をするから、合格。じゃあ、もし私が料理をしなかったら?仕事がもっと忙しくなって、作り置きをする余裕がなくなったら?
きっと次の彼女の前で、私は“全然料理をしなかった元カノ”として語られるのだろう。
それでも、私はもう一度だけ、自分の話をしてみようと思った。
「そういえば、来月有休を取って旅行しようと思っているんですけど…」
しかしその瞬間、テーブルにある健斗のスマホが光った。
「ごめん、ちょっと出るね」
そして健斗は、私の言葉を最後まで聞くことなくすぐに席を立った。
一人残されたテーブルで、冷めていくメインの皿を眺める。10分…。スマホをいじりながら待っていたものの、とても長い10分に感じる。
健斗からすれば、どうでもいい話だったかもしれない。私が有休を取ろうが、取るまいが彼には関係ないことだから。
「ごめんごめん。で、何の話だっけ?」
「あ…いえ、大したことじゃないので」
「有休取るの?」
一応、聞いてはいたらしい。でもこの後の健斗の会話で、私はすべてを悟った。
「はい、旅行しようかなと思って」
「へ〜いいじゃん。仕事は忙しくないの?有休取れるの、いいね。俺、最後に有休取ったのはいつだろう」
「忙しいんですね」
「プロジェクトが終わったら、ちょっと落ち着くかもだけど」
普通、相手が「旅行する」と言ったら、「どこへ行くの?」とか、そういう質問をしないだろうか。
彼は、一見話を盛り上げているように見える。でも、たぶん私の話は実際何も聞いていない。すべては、自分の話をするための布石でしかないように感じる。
店を出ると、夜風が少しだけ冷たかった。
「次は、どこ行こうか。来週は出張だから、再来週かな」
「…はい。また連絡しますね」
私の予定は、一度も聞かれなかった。
タクシーに乗り込み、窓越しに笑顔で手を振る。でも車が走り出した瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
健斗は、悪い人ではないと思う。きっと仕事もできるし、彼なりに一生懸命、私に向き合ってくれていたのだろう。
でも、質問は自分の話への前振り。褒め言葉は元カノとの比較。アドバイスは、私の専門分野への上から目線。そして、私が話し始めた途端にスマホを触る…。
若干、失礼だ。
それに私が付き合いたいのは、すごい人じゃない。私の話を、ちゃんと向き合って聞いてくれる人だ。
女は、話を聞いてほしい生き物である。その点、健斗では物足りない。
そう思って、私はあのLINEを送った。
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この記事へのコメント
ただ、年収それなりにあってお互いを思いやれる素敵な男性は20代でどんどん結婚していくから、出会い増やしていかないとなかなか結婚出来なさそう