A1:質問は“前振り”で、話したいのは自分のことだと悟った。
健斗とは、仕事仲間に誘われて参加した食事会で出会った。健斗の大学時代の先輩が主催者だった。
健斗は、外資系コンサル勤務で、頭の回転が速そうな印象を受けた。食事会では私は聞き役に回ることが多かったけれど、健斗とは自然に目が合い会話のテンポも心地よかった。
だから翌日健斗から食事に誘われた時、素直に嬉しかった。
しかも初デートは、神谷町にある焼き鳥の名店だった。エントランスから選ばれし人しか入れない特別感があり、この時点で心が躍る。
「ここ来てみたかったんです」
― わずか9席という貴重な枠を、彼はどうやって押さえられたのだろうか。もしかして、食の偏差値かなり高いかも?
そんなことを考えながら、乾杯をしてからしばらく経った頃のことだった。
「真凛ちゃんは、休日は何をしているの?」
「最近は、ピラティスに通っていて。あとは美術館に行ったりとか…」
健斗は、積極的に話を振ってきてくれたが、私は小さな違和感を抱いた。
「あ、美術館いいよね。僕はさ、休日は朝6時に起きて、皇居ランしてからジムに行くんだよ。最近はトライアスロンにも挑戦しようかなと思っていて」
― あれ…?美術館の話、もう終わり?
何の展示を観に行ったのか、どうして美術館が好きなのかなど、続きを話す準備をしていた私の言葉は、行き場をなくしてしまった。
「すごい。ストイックなんですね!」
「いや、コンサルって体力勝負だからさ」
健斗は、質問はしてくれる。
― でもそれは、自分の話をするための“前振り”でしかない…?
そんなことを感じていた。しかも会話中、健斗のスマホが何度もテーブルの上で震えていた。
「ごめん、ちょっとだけ返信してもいい?」
「もちろんです。お仕事大変ですね」
そう笑顔で返した。
仕事なら、即レスしようとするのは自然なことかもしれない。でも健斗は、「ごめん」とは言うものの、申し訳ないとは思ってなさそうな雰囲気を醸し出している。
また、自分が話している時は、スマホは触らないのに私が話し始めるとすぐに返信を始める。
パリッと焼き目がつけられた皮と、極上の脂、そして鶏肉のフワッとした食感と旨味がたまらない「手羽先」を食べながら、「こんな美味しい瞬間を、スマホのチェックで見逃すなんて可哀想だな」とさえ思った。
決定的だったのは、仕事の話になった時だった。
「真凛ちゃんは、代理店でどんな仕事してるの?」
「化粧品ブランドの担当をしていて。今はちょうど、来春の新商品キャンペーンの準備中なんです」
「へぇ、化粧品か。でもさ、正直今ってテレビCMの時代じゃないでしょ?これからはSNSとインフルエンサー、あとはデータドリブン。代理店って、中抜きって言われがちだし、正直大変だよね」
― いや、そんなこともちろん知っています。こちらは、毎日やっておりますから。
SNSもインフルエンサー施策も、データ分析も、今の代理店の仕事では当たり前の話だ。私は入社9年目で、まさにその最前線にいる。
それを、業界の外にいる健斗が語ってくる。
― 私がどんな思いをするか分かっているのだろうか。
「…そうですね。そういう声もありますよね」
「うちもマーケ戦略の案件やっているから、よくわかるんだよ。困ったら、いつでも相談乗るよ」
「ありがとうございます」
笑顔を作るまでに、少しだけ時間がかかったことに、健斗はまったく気がついていないようだ。
でも、会計はスムーズに健斗が持ってくれたし、初デートで緊張してつい自分語りをしすぎてしまっただけなのかもしれないと思い直した。
「今日はありがとう。また会いたいな」
「はい、ぜひ」
私は笑顔で頷いた。





この記事へのコメント
ただ、年収それなりにあってお互いを思いやれる素敵な男性は20代でどんどん結婚していくから、出会い増やしていかないとなかなか結婚出来なさそう